ホームズ、最後の短編集
★★★☆☆
シャーロック・ホームズの活躍する短編集の第5弾。
最後の短編集になります。
人気のシリーズとはいえ、
vol.5ともなると、ネタ切れの感もありますが、
それを補うためでしょうか、
ホームズの1人称で書かれた作品があったり、
どうみてもナンセンスとしか思えないような作品や
SFっぽい作品があったりと、
意外に楽しめました。
ホームズとワトスンのコンビに魅せられている方は、
もちろん文句無しに楽しめる作品集です。
以下、収録の12編について、簡単なコメントを記します。
【マザリンの宝石】
モリアーティ教授を彷彿とさせる、シルヴァイス伯爵登場。
【ソア橋の難問】
本短編集、唯一のトリッキーな作品。
この時期に来て、トリック創出とは、ドイルはえらい。
【這う男】
ナンセンスというべき作品。
これって、現代なら、バイ−−(これ以上は言えません)
【サセックスの吸血鬼】
赤ん坊に噛みつく母親。彼女は吸血鬼なのか?
【三人のガリデブ】
三人の痩せと太っちょのお話−−ではありません。
【高名な依頼人】
恋の破局を目論むという変わった作品。
【三破風館】
依頼人の亡くなった息子の荷物に、事件を解く鍵が。
【白面の兵士】
依頼人の友人の顔が真っ白に。
現代的視点ではちょっと問題あり、かな。
【ライオンのたてがみ】
ダイイング・メッセージもの。
解決が何だか、SFっぽい。
【隠居した画材屋】
画材屋の意外な正体。
【ヴェールの下宿人】
顔のヴェールに隠された悲惨な過去。
【ショスコム荘】
納骨堂で、何する人ぞ。
ホームズ全集最後の単行本
★★★★★
◆「ソア橋の難問」
大富豪にして米国上院議員でもあるギブスンの妻、
マリーアの死体がソア橋で発見された。
死体は、住みこみの家庭教師・ダンバーからの呼び出しの手紙を
握り締めており、凶器と思しき拳銃もダンバーのたんすから発見された。
はたしてダンバーがマリーアを殺害したのか……?
ソア橋の欄干が欠けていたことから犯人が
仕掛けた銃のトリックを見破ったホームズ。
単純なトリックではあるものの、犯人の特異にして切実な動機と捨て身の
行為が合わさることで、常識では測れない不可能状況を現出させています。
◆「三人のガリデブ」
大富豪の莫大な遺産を相続するため、自分を含め、「ガリデブ」
という珍しい性を持つ男を三人、集めようとする弁護士の話。
ホームズが早々に弁護士の話を嘘と見抜くため、ホワイダニットが焦点となります。
中盤以降、物語はほのぼのした雰囲気から一転、シリアスな展開に転調していき、
クライマックスの活劇まで間然するところがありません。
負傷したワトソンを本気で気遣うレアなホームズの姿も描かれ、
その筋の人には堪らないかもw
◆「隠居した画材屋」
隠居した画材屋のアンバリーは、若い妻と友人のアーネスト医師
によって、ほぼ全財産を持ち逃げされた、と訴える。
ホームズの代わりにワトスンが捜査を始めるのだが……。
盗難事件直後にも関わらず、なぜか家のなかのペンキ塗りをしているアンバリー、
彼の家のそばでワトスンが出会った、背が高くて色の浅黒い軍人のような男、
そして、アンバリーが持っていた事件当夜の劇場の切符――。
集められた情報から真相を見破ったホームズは、犯人をはめるために罠を仕掛けます。
高名なシャーロッキアンの迷訳
★★★☆☆
翻訳に関して、既存のものと違うものを意識しているのか、かえって平凡な印象である。気になったのは、『高名な依頼人』でホームズが暴漢に襲われたことをワトスンが知る場面。原文には
I think I could show you the very paving-stone upon which I stood when my eyes fell upon the placard, and a pang of horror passed through my very soul.
(あのプラカードが目にとまり、恐怖の戦慄が心を貫いた時、一体私がどこのどの舗石の上に立っていたか、今でもはっきり言えるのではないかと思う)
ここを、
「歩道を歩いていてそのプラカードに目がとまったときのことは、はっきり覚えている。いきなり胸のど真ん中を刺されたような、恐ろしい思いをしたからだ。」
と訳している。
私には、前者の翻訳の方が原文に忠実で、より良く思えるのだが。
ちなみに前者の出典は『ミステリ・ハンドブック シャーロック・ホームズ』である。同書もまた日暮雅通氏監訳である。氏は今回なぜ訳を変更したのだろう。
もう少しで全集完結。でも……。
★★★☆☆
日暮雅通氏の個人訳によるホームズ全集も「恐怖の谷」を残すばかりとなりました。しかし、長い時間をかけているにもかかわらず、他の全集と一線を画す何かがあるとも思えず、誤訳が正されているわけでもありません。出版社の企画意図に首をひねるばかりです。