いまだに人気の衰えない推理作家・江戸川乱歩。本書には、彼が1年余りの休筆期間を経て、ミステリー作家として脂が乗りはじめていたころに書かれた作品4編が収められている。表題作「黄金仮面」のほか、「何者」「江川蘭子」「白髪鬼」は、それぞれ1929(昭和4)年から翌年にかけて、新聞や月刊誌などに連載された。なかでも「黄金仮面」は、当時百万雑誌と呼ばれた雑誌「キング」に載るや、たちまちブレイクした。
そのストーリー自体は勧善懲悪パターンで、いたってシンプルだ。金色の仮面をつけ、大胆不敵な手口で日本中の名だたる古美術品を次々に狙っていく謎の怪盗・黄金仮面。命の危険にさらされながらも、その黄金仮面に立ち向かう名探偵・明智小五郎。両者の一歩も譲らない、くんずほぐれつの対決がスリリングな冒険活劇調に語られていく。掲載された雑誌が道徳性を重んじていたこともあってか、乱歩独特の猟奇性は影を潜め、児童文学的色合いが濃い。乱歩自身も「私の長編作品の中でも、最も不健全性の少ない、明るい作」と書いている。
「白髪鬼」は、自分を殺そうとした者たちへの復讐譚。大牟田子爵は、ある時断崖から転落してしまう。九死に一生を得た彼は、転落を企てた人間がいままで信じ切っていた人間たちと知り、彼らに復讐を誓う。「黄金仮面」とは違って、復讐の方法やその描写に探偵小説的な趣向と乱歩ならではの残虐性とが盛り込まれている。ほかの2編含め、上昇気流に乗りつつある作家特有の勢いが、行間のあちこちから強く感じられる作品ばかりだ。(文月 達)
充実ぶり
★★★★☆
光文社文庫版「江戸川乱歩全集」の第7巻。
「何者」「黄金仮面」「江川蘭子」「白髪鬼」の4篇が収められている。
決定版の全集を狙ったもので、乱歩による「作者の言葉」や「自作解説」はもちろん、挿絵の収録、詳細な注と、実に豪華な内容となっている。
「黄金仮面」「白髪鬼」と大きな作品のほか、本格ものの傑作ともいわれる「何者」、横溝正史らとのリレー小説「江川蘭子」(乱歩による序章のみ収録)と、なかなかの充実ぶりだ。
新たに読み始める人にはいい全集だろう。あるいは、気持ちを一新して乱歩を読破しようという人には。
怪人二十面相の原型
★★★★★
黄金仮面は、後に大ヒットした怪人二十面相シリーズの大人向け作品と言えそうです。
大人向け作品なので少年探偵シリーズとは違い「殺人」などの描写は登場するものの
当時の国民的な雑誌に掲載されていただけあって、他の作品でしばしば見られるような
「不健全」な描写は極めて少なくなっています。
その点では、是非が分かれるかもしれません。
ですが、そういう描写が苦手な方や、少年探偵シリーズのファンであればきっと面白く読める作品だと思います。
怪奇黄金仮面現る
★★★★☆
「黄金仮面」、「何者」「江川蘭子」「白髪鬼」を収録。
「黄金仮面」は有名なフランスの怪盗物がイギリスの名探偵を登場させて
こてんぱんにした小説に想を受けたもので、
有名なフランスの怪盗がは日本にやってきて、明智小五郎と対峙するというストーリー。
どうしても、このシチュエーションの場合書いているほうの創造したキャラクターに
思い入れが偏るのは仕方ないことでしょう。
ただ、善と悪がはっきりしているのでスピーディーな展開にのめりこみます。
「江川蘭子」はリレー短編の一部。
ちょっと残念
★★★★☆
江川蘭子の話については、残念の他いいようがありません。「これで一つの短編として成立していると判断したので」と記載されていましたが、それはどうでしょう。他の作家さんたちとのリレーということならば、別の文庫本として出してほしかったと思います。まあ、続きが気にさせるというのは流石江戸川だ!と感じました。江川蘭子を差し置いた他の話は無論星5つです。
白髪鬼が秀逸です。
★★★★☆
この本収録の【黄金仮面】など、乱歩が発表したタイトルはどれも有名なものが多いのですが、私自身は乱歩をはじめて読みました。この本で一番衝撃的に面白く感じた作品は【白髪鬼】です。これは復讐劇なのですが、主人公のものすごく徹底した復讐っぷりに、恐怖を通り越してある意味喜劇のようなものを感じずにはいれませんでした。