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江戸川乱歩全集 第4巻 孤島の鬼 (光文社文庫)

価格: ¥980
カテゴリ: 文庫
ブランド: 光文社
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   大正時代の終わりから昭和前半に一世を風靡したミステリー作家・江戸川乱歩。おどろおどろしく奇怪な筋立て、幻惑的な場面展開、妖しい人物、名探偵・明智小五郎による快刀乱麻の謎解きなど、短編長編のいずれも魅力にあふれいまだ人気衰えることがない。この乱歩の全集30巻が新たに文庫版で刊行され始めた。初回配本『孤島の鬼』には同名作品と『猟奇の果』の2長編が収録されている。

 『孤島の鬼』の主人公「私」は美貌の青年。彼を愛する年上の青年の悲哀と、彼が愛した娘の殺人から物語は始まる。そして「私」が巻き込まれる悲劇とおぞましい体験は、短期間で彼の頭髪を真っ白にさせるほどのものだった。同性愛と異形なる者の陰翳に隈取られつつ、血塗られた殺しがそこに重なった、濃密で粘度の高い<語り物>である。

 『孤島の鬼』と『猟奇の果』は昭和4年から1年に1作のペースで間断なく雑誌連載され、整形外科手術による「人間改造術」をその共通プロットに持つ。しかし完成度において『孤島の鬼』にはっきりと軍配が上がる。『猟奇の果』は途中でストーリーの破綻をきたし、後半で明智小五郎を登場させるが、姑息な急場凌ぎも上手くいかなった。才能豊かな乱歩にしてさえ起こった失敗だが、それをこそおもしろさとして受け止めることもできよう。

   装幀のカバーに使われた勝本みつるのオブジェ・コラージェが妖しさを演出。見返しには初版本の写真もカラー掲載されている。(松平盟子)

切々たる余韻を残す乱歩長編の最高峰 ★★★★★
数多くの珠玉の短篇に比べて長編はちょっとー、という江戸川乱歩ですが、こと“孤島の鬼”に至っては俄然弁護したくなります。 奇形児、ホモセクシャル、グロテスクな不可能犯罪、ねじ曲がった人間の復讐心―と、とにかく“ゲテモノ”と見なされかねない要素のオンパレードなのですが、ラストの諸戸道夫の手紙を読んだとき、人間の業というもの深さに“もののあわれ”さえ感じてしまいます。 人間というのはかくも自分というものを他人に受け入れてもらいたいものなのかー。 それまで人間界の常識からおよそかけ離れた地獄絵図ばかりの展開だった物語がここに来て、何か一筋の希望(?)すら与えるような閉じ方をしています。 一応怪奇探偵小説という範疇に含まれている作品ですが、本当はジャンル分けできない唯一無二の幻想譚です。 また(ちょっと書くのが恥ずかしいのですが)洞窟の中で、死を覚悟した諸戸が主人公に肉体を迫る場面の描写は、ホモセクシャルでもなんでもない私でさえ強烈なエロティシズムを感じてクラクラしてしまいました。 ホントにスゴイものって、好き嫌いを超越してしまうのですね。

この作品は一応映画化されています。 石井輝男監督の“江戸川乱歩全集・恐怖奇形人間”がそれで、他の乱歩作品の要素が絡み合って少しゴチャゴチャいる作品なのですが、ベースになっているのは間違いなく“孤島の鬼”です。 なにしろ“奇形人間を作ってしまう”というトンデモ内容が現代では受け入れられず、本国日本ではDVDはおろかビデオ化すらされていない幻の名作。 しかし、アメリカでは昨年DVDが発売され(画質・音質良好)、アマゾンを通して買うことが出来ます。 そちらも違った意味で怪(快)作です。 興味のある方はご覧になってください
僕が人に乱歩を勧めるなら先ずこの作品です。 ★★★★★
光文社文庫の江戸川乱歩全集発行を機に乱歩を読み始めたわけですが、最初の方で初期の傑作短編の数々に触れてしまったので、
乱歩の長編はやや物足りなく感じる事が往々にしてあります。もちろん魅力的な長編も多いのですが、
乱歩自身が飽き性なのか、それとも見切り発車なのか、物語序盤の方向性が最後まで一貫して描かれずに、
えらく破綻した小説になる事も珍しくありません。もっとも、それが乱歩長編の魅力の一つでもあり、
実際、気合いを入れてプロットをしっかり作った作品よりも、そう言った破綻小説の方が面白かったりすることもあって、
乱歩にとってはジレンマだったでしょうね。

さて、表題作「孤島の鬼」は、そんな乱歩的な魅力に溢れた乱歩長編の最高傑作と呼べるのではないでしょうか。
乱歩がどこまで計算して構成したのかは知りませんが、
序盤の本格探偵小説に始まり、怪奇、冒険というそれぞれまったく別々の輝きを持った宝石が、
しかるべき人間がその宝石を身につけたかの如く、至極の煌めきを放っているではありませんか。
混沌と秩序との幸福な関係が、この作品では奇跡的に果たせたと言えるのでは? 
同じプロットをもとに作品を書いたとしても、本作に迫る作品を書くことは叶わないでしょう。
おそらく乱歩自身にも。それが、乱歩が乱歩たる所以だと思いますが。

「猟奇の果て」に関しては、特にこれといってないんですが、登場人物の「品川四郎」の風体をイメージする時に、
「品川庄司」の品川さんが浮かんでしまったのは僕だけでしょうか?
蠢く乱歩ワールド ★★★★★
両作品とも乱歩が得意とする「別人格による人間形成」を扱っている。

「孤島の鬼」は傑作。語り手である「私」が巻き込まれた体験により全くの別人と変貌してしまった後のおぞましい物語を濃密にサスペンスフルにそしてミステリーとして書き上げている。

「猟奇の果」はまあ最終的に明智小五郎を出して収拾をつけなければならないような状態の作品ですが。
明と暗 ★★★★☆
”孤島の鬼”乱歩ワールドの代表的作品の一つ。恐ろしい中にも、ほっこりした、優しさや、愛情に、心洗われる。
 前半のスローな展開から、中、後半えのスピーディな展開は、乱歩ファンには、たまらない。特に後半は、手に汗握るため、命綱を締めて、読んで頂きたい。
”猟奇の果"乱歩、明智 小五郎ファンには、物足りないかも知れないが、

当時の、出版事情を、考慮すれば、いたしかたない事かも。
それでも、江戸川 乱歩氏は、最後まで、乱歩ワールドを創りつずけようとする。ゆっくり、じっくり、読んで欲しい作品である。

孤島の鬼 ★★★★★
江戸川乱歩の長編小説の中で、これほど完成されたものは無いと言っていいほど、壮大なスケールと謎、グロテスクな物語だった。何度でも読み直してしまいたい!