新保・山前ご両人、宿願の『乱歩全集』全30巻を編むこと
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本全集全巻についてのレビュー。乱歩没後、講談社より度々全集が世に出、3度目の『江戸川乱歩推理文庫』に至ってはついに幻の『貼雑年譜』までも刊行。しかし『推理文庫』の内容にはいささか問題があった。書中にある「初出時の原文のまま掲載」が売りである筈のテキストが実はそうではなく戦前軍部により扇情的と見なされ削除・訂正を余儀なくされた箇所は手付かずのままだった。
あれから10年以上の時が流れ、光文社より最強の布陣で新『乱歩全集』がベールを脱ぐ。前述の削除箇所を全復元のみならず、初出以来のテキストの変遷を徹底比較した「解題」、乱歩小辞典と言ってもいい「註釈」。「解題」「註釈」「解説」だけを目当てに購入しても全く問題ない。監修者はミステリーファンならその名を知らぬ者はない新保博久と山前譲。両氏を乱歩邸に通わせ膨大な旧蔵書のデータ化を指示した故松村喜雄氏が生前切望していた真の全集がついに実現した訳だ。強いて言えば巻末エッセイ「私と乱歩」を全て小林信彦氏に託し、全集では収録しきれない編集者乱歩の隠された側面や作品論を展開してくれたら・・・とも思うがこれは贅沢と言うもの。資料性の高さ、デザイン・造本の魅力、比類なき全集である。密度が濃いという意味では将来これを超える『乱歩全集』は果たしてあるだろうか?
(追記)残念ながら第4巻初版の「孤島の鬼」にてごく一箇所のみ編集部によると思われる語句の手入れが発見されている。当初の方針どおり必ず再版で訂正するべし。
光の魔術師・江戸川乱歩
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江戸川乱歩は光の魔術師である。鏡地獄なんかを読めばすぐわかる。加えてこの「押絵と旅する男」は富山湾に面する魚津の蜃気楼を、まるでバミューダ・トライアングルの時空の穴のようにとらえている。押絵が従来の二次元絵を超えて、綿で立体感をもたせたものである三次元的であることが、これを象徴している。能登と魚津に挟まれた富山湾、これが時空を超えれば、乱歩ならぬオランダの光の魔術師・フェルメールにタイムトリップできるといったら、あなたは信じるだろうか。西洋絵画の読み解きのためのフェルメール論であるこの本、「宇宙に開かれた光の劇場」上野和男・著では、乱歩の「押絵と旅する男」についても語られている。オランダと日本、乱歩とフェルメールは、カレイドスコープとビノキュラーでお互いを覗くことができたのだ。
猟奇物の極致
★★★★☆
「蟲」「盲獣」は心臓の弱い人にはおすすめできない。
本当に怖くて気持ち悪い!
近年ジャパニーズホラーがブームになっているが、その淵源が乱歩にあるのは間違いないだろう。
視覚的な恐怖ではなく、心理的な嫌悪感を刺激し、鳥肌がたつような恐怖を読者に与える。
昨今のホラー小説など比較にならないくらい怖い!
『蟲』が虫でない
★★★★★
『蟲』がちゃんと蟲になっていましたので最高。虫 と書かれると、80%位雰囲気が損なわれるんです。