妖怪の起源と正体
★★★★☆
1999年に講談社ノベルスとして出たものの文庫化。
著者は妖怪研究家。おそらく、この分野では現在もっとも信頼できる存在であろう。
本書は、京極夏彦氏が描いた妖怪画をもとにしながら、妖怪たちの起源と正体を明かしていったもの。鳥山石燕の画集をメインテキストに、『和漢三才図会』、『新著聞集』、『世説新語』など多数の古典籍を用い、妖怪が想像され、変形して、現在の姿に至るまでが解説されるのである。
取り上げられている妖怪は、産女、鉄鼠、野寺坊、蓑火、ひょうすべ、目目連など。
ちょっと難解な部分もあるが、並の妖怪本を読み飽きた人には嬉しい一冊だろう。
南方熊楠に似た手法の人だ。
妖怪マニア垂涎の妖怪解説本の決定版
★★★★★
ご存知「妖怪馬鹿」の多田氏(文)、京極氏(画)のコンビが贈る学術的妖怪研究書。「画図百鬼夜行」で名高い「鳥山石燕」の紹介を中心とした前文に続き、42の妖怪が解説される。この中には京極氏の作品に登場する以下の妖怪も含まれる(多田氏がそれに言及している訳ではない)。「姑獲鳥」、「魍魎」、「狂骨」、「鉄鼠」、「絡新婦」、「塗仏」、「ぬっぺっぽう」、「小袖の手」、「文車妖妃」、「目目連」、「鬼一口」、「煙煙羅」、「倩兮女」、「火間虫入道」、「襟立衣」、「毛娼妓」、「川赤子」(結局「百鬼夜行「陰」全て」)、「鳴釜」、「瓶長」、「山颪」、「陰摩羅鬼」。畠中恵氏の「しゃばけ」シリーズの「白沢」も登場する。
多田氏の記述はあくまで学究的姿勢に徹しており、その探究心は凄い。妖怪以外の薀蓄も豊富。一例を引こう。「姑獲鳥」においては、その原型が「羽衣伝説(アジア共通にある)」と言ってまず読者を驚かせ、屈原なども登場させて「姑獲鳥」が中国産妖怪である事を述べる。これが日本に存在していた幽霊「産女」と混合されたと説く。更に、「子啼き爺」が「産女」の亜流である可能性を示唆する。また、裸の子供が「姑獲鳥」に狙われ易いとか衣服との関連性を強調したり(羽衣伝説との関連)、「牛鬼」との関連性を述べたりする。まさに水木先生の世界であり、妖怪ファンには堪らない。柳田国男風の民俗学的解説もある。これだけ多くの考証をしながら、妖怪は複雑系であり、その全容は解明できないと述べる。全容が解明できない点が、妖怪の妖怪たる所以と言う事は著者も読者も承知の上なのだが。
妖怪道を歩む多田氏ならではの著述である。京極氏のイラストも特筆もので、モノクロ画で妖怪達の神秘性、不気味さ、物悲しさを巧みに表現している。妖怪マニア垂涎の妖怪解説本の決定版。
京極夏彦作品の参考書
★★★☆☆
決して否定的な意味ではないが、京極夏彦作品の解説書といえる。京極氏の作品に登場する妖怪たちを参考書のように解説してるからである。もちろん内容は、各妖怪たちを、名前の由来や、伝承の由来まで捉えて真面目に解説しているもので勉強になる。学問的な妖怪入門書といえる。
現代版妖怪解説本の復活!?
★★★★★
妖怪研究家多田克己が文章を。そして妖怪を京極夏彦が描く。一つの妖怪に対して複数の説があったり、その変化の過程から妖怪が変化を遂げたりなどその諸説を紐解く。
もちろん京極夏彦が描く妖怪の一体にも、その複雑な要素が含まれているから気が抜けない。