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黒と茶の幻想 (上) (講談社文庫)

価格: ¥650
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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「中年男女」の青春小説 ★★★★★
先に「三月は紅の・・・」を読み、その中に語られる
この「黒と茶」の断片を読んだときには、最初は日常的なかんじではじまって
だんだんやばく、というか危うい感じになっていくというパターンかと思っていました。

が、読んでみると、違いました。危ういところは何回かあったにもかかわらず、
最後には何という、さわやかな読後感。
構成的に最後の語り手として(恩田さんにはよくあるのですが、語り手が
それぞれ登場人物4人が一人1回で4回変わります)
一番常識人っぽい登場人物を持ってきたのもうまかったと思います。
これは、登場人物がすべて「高校出てから19年」の、それぞれ妻子つき、
押しも押されぬ中年男女なのにも
かかわらず、「青春小説」と私は感じました。

元々青春小説というとお日様の下でボールを追いかけて的なシチュエーションが
絶対のような感じがある中で、夜中の話で青春小説を見事に書いた
「夜のピクニック」は秀逸だと思っていましたが、
今度は、登場人物が若くなくても書けるのだ、というのをみせてもらった気分です。
中には結構どろどろした話も含まれているのに、こんなさわやかな読後感とは、
不思議な気分です。
やはり、屋久杉、屋久島という設定の骨子が効いているのかもしれません。

恩田さんのは「夏の名残の薔薇」みたいなのも大好きですが、この作品は
ちょうど主人公4人と同じ世代の私にとっては、いろんな点で
心に響く物語でした。結末が気になってさきを読むお話と言うよりは
途中すべてを楽しく読みながらゴール、というお話でした。
帯の文句通り「本が好きな人に」おすすめです。
美しく、とても整った一冊です ★★★★☆
美しい自然に囲まれた屋久島に、美しい男女4人が集まり、自分たちの過去を巡る「美しい謎」を解きあっていく。
ほぼ全編、会話と回想で進んでいくのですが、会話は機知に富んでおり、「謎」もスリリングで飽きさせない。
そして舞台となる屋久島の自然の素晴らしさ、というか、それを描き出す著者の筆力のすごさも、この小説の大きな魅力。
屋久島の森を巡りながら、人の誰もが抱える心の森の中に分け入っていく・・・そんな趣の一冊です。

もっとも、私のようなひねくれた人間は、そのあまりにも整いすぎた舞台設定に、なんとなく鼻白んでしまうのも事実。
そんなわけで星4つなのですが、フィーリングが合う人には最高の一冊なのではないかと思います。
美しい ★★★★★
恩田作品で1番好きです。一人ひとりの心の中を描いた作品。
心とは別に、現実の世界でのかけひきも絡み一見ぐっしゃぐしゃになってもおかしくない人間関係を、最後まで美しく描いています。
視点が一人ずつ変わっていくのですが、こういう順番でくるかーというちょっとした驚きもあり。
他シリーズと重なる部分は恩田ファンにとってはテンションのあがるところ。
今はこれを超える新作を期待しています。
ストーリーは良いですが、表現に難ありと思います ★★★☆☆
ストーリーそのものは良かったのですが(少なくとも上巻は)、
表現が気になりました。
具体的に述べると、同じ語や抽象的な表現、余計な描写が多いと思ったのです。

まず、学生時代の仲間同士が旅行に行くところから始まるのですが、
時系列が前後するので、最初は潔が不参加であることが分からず、戸惑いました。
そして、主題が「憂理」のことなのに、彼女の名前が出てくるより先に、P71でただ「彼女」とだけ表記するのは、唐突な印象を受けました。
個人的には、「憂理」の名前が先の方が良いと思います。

それにしても、パートナーがいる男女が、それぞれ単独で旅行に参加などするものですかね?
彰彦が女性から呼び捨てにされるのも、現実的ではないような気がします。
彼は蒔生と大学から付き合いがあるというだけなので、そこまで親しくなることができるものなのでしょうか、疑問に思います。

また、P223あたりで「幸福」が4文節の間で5箇所も出てくるのが読み辛く、
「こと」や「そこ」などに置き換えた方がよいと思いました。
それ以外にも、P231やP278あたりの描写はややくどく、
省いた方がすっきりすると感じた文章もありました。
節子が分かりにくい話し方をするというようなことも書かれていますが、
読みやすくすることの方が大切ではないでしょうか。

同様にP206〜208、P306〜314の人達の話も、入れなければいけない必然性は感じませんでした
(下巻でリンクしていたらゴメンなさい)。
そうそう、独白なのに「話が逸れたが」という表現もありましたね。
このようなところも、違和感を覚えるものでした。

何かアラ探しをしているようで嫌になりますが、気になるものは気になるのです。
下巻はもっと読みやすいことを期待します。
丁寧に書かれて感じでした ★★★★☆
学生時代同級生だった、利枝子、節子、蒔生、彰彦の四人は、それぞれの思いを抱えながらもJ杉を見る旅行に出かける。
旅のテーマは『非日常』。
持ち寄った「美しい謎」を解きながら歩くうち、少しずつ何かが変わっていく…

基本的に恩田さんの作品は苦手なのですが、これはおもしろかったです。
それぞれの事情が丁寧に作りこまれていたし、情景描写もきれいでした。

上巻は、大学時代にひどいふられ方をしたとはいえ、まだ蒔生のことが気になる利枝子の物語と、なぜか紫陽花が怖く、その理由を思索する彰彦の物語でした。
個人的には、彰彦のお話のほうがおもしろかったです。
四人の中で、彼のお話が一番謎が多く、興味をそそられた気がします。
途中に出てくる不思議な少年とのエピソードも象徴的で印象深かった。

特に何が起こるわけでもないけれど、味わって読みたいお話でした。