すなわち、「国際貿易がない場合、工業発展が貧困層の厚生を向上させる効果は極めてわずか」、「農業の技術進歩は間違いなく貧困層に利益を与える」、「工業発展の利益が貧困層に行き渡るのは農業が十分に発達している場合のみ」「農業未発達の段階で(貧困層が食料需要を満たすことだけにあえいでいる状態で)工業が発達しても、貧困層はより貧しくなるだけ」「インドの貧困層が国際貿易によって利益を得るか損失をこうむるかは技術進歩が他国に比べて早いか遅いかによって決まる、遅い場合はインドの貧困層は損失をこうむる」「インドの農作物輸出にブームが起きた場合、貧困層が利益を受けるかどうかはブームの内容による。それが海外需要の増加によるものであれば貧困層はいっそう貧しくなり、インド農業の技術進歩によるものであれば貧困層は豊かになる」など。
インドの開発経済を例にとり、機会費用、一般均衡、比較優位の考え方などの経済学の基本的フレームが理解できる、というのが本書の最大の魅力でしょう。この基本的フレーム・モデルを理解することによって、例えば農業の対外開放などの今日的問題への理解も深まります。工業化や貿易自由化が必ずしも開発国の貧困層を救うわけではなく、より窮乏化させることがある、一見常識的なものの見方を変える良書。
経済学の知識は無くても読み進めることはできるが、大学の一般教養レベルの知識はあったほうがいいと思う。経済学は、一定の想定を置いたモデルからスタートし、その想定を1つずつ外していき、現実に迫る手法をとることが多いのだが、本書でも、そのようなスタイルをとっている。したがって、基本中の基本の考えが頭に入っているほうが、本書の醍醐味を感じることができるだろう。
たとえば、食料と繊維の2材モデルで、繊維の価格が低下すると、繊維の需要が増える、という一般的な想定に対し、本書は、貧困層は繊維の需要を増やさな㡊??と想定する。これにより、結論はどう変わるか?
また、この本書のいいところは、モデルで遊ぶだけではなく、「だったら、どうすればいいのか」という提案を出している点である。こういう条件のもとでは、こうすべき、という点が明快であり、その思想のベースは、貧困の解消で筋が通っている点もよいと思う。
一見常識に反しているような結論です。しかし、実はこれが理に適っていることを、簡単なモデルでわかりやすく論理的に説明してくれています。貧困と国際貿易との関係を通じて、経済学の基本的な考え方も学ぶことも出来ます
筆者は途上国の貧困問題を、財として穀物〈必需品〉、繊維(基礎的工業品)、自動車〈奢侈品〉、経済主体として労働者、地主、資産家を設定して要領よく説明している。繊維産業の生産性が向上した場合に逆に労働者が一層貧しくなることの説明などは目から鱗が落ちる思いであった。
筆者は様々な事象について、とても理論的に、しかし数式などは一切使わず説明している。しかも、必要な経済学の知識については、本文中で経済学の「イロハ」から解説してくれているので、非常に分かりやすい。 経済援助など途上国経済開発に携わっている人、興味のある人には是非一読を薦める。