ノーベル平和賞に一番近い人らしい。でもMDGは難しいらしい
★★★☆☆
国連ミレニアムプログラムの責任者でもあるサックス教授(1954- )のベストセラー。500ページを越える書。序文をボノ(U2)が記している。読者の私は経済にはまったく疎いので十分に咀嚼出来ていないと思います。
29歳にしてハーバードの終身教授のポストを得たというサックス教授が、貧困の罠から途上国を救うためには何をすべきかをご自身の途上国での経済政策顧問等の仕事を通じ国連でもミレニアムデベロッピングゴール(MDGs)を策定して世界から貧困をなくすという。
病気の撲滅、科学の有効利用、教育の徹底、基本的インフラの構築、極度の貧困者の救済がこれからの繁栄に必須だと書く。おそらくそのゴールに不平を述べるものは少ないだろう。サックスさんは先進国のGDPの0.7%を使えば極度の貧困は2025年までに解消できるという姿勢なのだ。
備忘録的にメモしておきたい。
近代経済成長とともに生じた現象のなかでも、もっとも目につくのは都市化である。
IMFの禁欲主義的施策が途上国の混乱を招いた事が多々あったp128
被援助国の自助努力も必要(当たり前ですが、なぜ出来ないのかの考察がないですね)p379
援助の一本化が望ましい、それには国連システムの活用がよい。p399
IMFと世銀はまったく協調していない。p401
私たちの目標は極度の貧困をなくすことであり、すべての貧困をなくすことではないp404
ボツワナ、ナイジェリア、セネガル、ウガンダの4国の2000年のGDP合計は570億ドル(人口は1億6千万)、その年のアメリカ高額所得者上位400人の所得は690億ドル p423
アメリカは、大国幻想と単独行動の癖を捨て、多国間協議に参加すること重要。ネオコン(新保守主義)のいうアメリカ帝国など幻想にすぎないが、きわめて危険な幻想p488
奴隷制廃止、植民地の解体、人種差別反対運動には共通した特徴がある。スタートした時には無謀な試みと言われた。p495
運動を成功させる9つの段階
貧困をなくすことを約束する
実行計画をもつ
貧しい人びとの声を届かせる
世界のリーダーとしてのアメリカの役割を回復する
IMFと世界銀行を救う
国連を強化する
科学をグローバルに活用する
持続可能な開発を促進する
一人一人が熱意をもってとりくむ
p45のHIVに関する部分は意味不明である(おそらく訳者のミスだろう)
また同時に傲慢な援助 ウイリアム・イースタリー 東洋経済新聞社 2009 を読まれると興味深いと思います。サックス教授はプランナーであり、成功しないと指摘しています。
開発経済学入門
★★★★★
開発経済学入門としても最適な一冊である。貧困を救うための具体的な処方箋を掲示している。その処方箋は夢物語ではなく、現実的に達成可能ものであることがわかる。「貧困を救うなんて無理じゃ・・」そう思っている人にこそ読んでほしい。実際、この本を読んで行動を起こした人も多いはずだ。それだけ胸を打つものがある。私たちの世代が、貧困を終焉するのである
ネクスト・マーケットに活路を見出す企業家にも読んでもらいたい本!
★★★★☆
本書全体を通した感想としては、筆者の提言を実行に移せば2025年までに貧困を終焉させることができるのだろうと信じさせる力があることから、★5つをつけたいところだが、強引な課税政策を提言していたという点で減点し、★4つとした。
本書は、2000年に採択された国連ミレニアム開発目標に掲げられた8つの目標のうち、1日1ドル以下で暮らす人々を2015年までに半減するための道標を提供してくれるが、そもそも論として、開発経済に対する我々の精神のあり方を「啓蒙思想」に求めるべきだという主張には共感を覚えるところである。「啓蒙思想」とは、科学とテクノロジーを道具にして人間の生活を支える社会・政治・経済などの機構を持続的に改善することはできないだろうかという考えを起点にして、人間の意識的な社会活動が、地球規模での人類の幸福につながることを信念とする哲学である。貧困国の経済破綻 が、暴力,テロリズム,国際犯罪,大量移民,難民移動,麻薬密売,疾病などの温床になり国家安全保障を脅かす原因となるばかりか、より長期的にはグローバル企業にとっての潜在市場を奪うことになりかねないことを考えると、ネクスト・マーケットに活路を見出す企業家には是非とも「啓蒙思想」を理解し、グローバル経済のみならずグルーバル社会の構築に協力してもらいと思う。
本書のトピックは、極度の貧困が生じる原因の解明並びに改善策と、極度の貧困から脱し持続的な経済成長を遂げるための重要な要素を特定することにある。
まず、前者については、人々の基本的な要求を満たすのに必要な初期資本が不足し、(資本減耗率<人口増加率)かつ(資本減耗率>貯蓄増加率)の状態が続き恒常的に1人当たり資本が減少する結果、スパイラル的に1人当たり所得が減少していくこと(「貧困の罠」と定義)が貧困の原因となっており、より深い考察として初期資本が不足する原因について、物理的な地理条件,経済・財政政策の枠組み,地政学並びに文化的障壁を分析することにより解明すること(これを「臨床経済学」と定義)が必要であると説いている。そして、現在のODAの運営方法の問題点を指摘し、国連事務総長をリーダーとするチーム編成によりODAの適切な運営が必要であると提言している。
次に、後者については、イギリス産業革命、インドのIT革命、中国の改革・解放などを例にとり、テクノロジーの普及が持続的な成長に向けての必要条件であることを指摘しており、先端テクノロジーを有する企業の果たす役割の重要性を改めて認識させられる。
なお、GDPに占めるODAの割合について、アメリカ、日本、EU諸国が非協力的な態度をとっていることを批判しており、特にアメリカについては20万ドル以上の高所得者に対して5%の追加課税をすべきだという提言があるが、このように一定の条件を備えた者に対する極端に制裁的な課税政策は、企業家が「啓蒙思想」を受け入れ行動すれば不要になるのではないだろうか。この点は今一つ納得のいかなかった点である。
化粧が上手
★☆☆☆☆
道徳的倫理的化粧を冗長な文章で行い、論理的に弱い部分をうまくかくしている。
援助(額)を正当化したい人・組織にとっては、分かりやすい主張でもってこいだが、真によい援助につながるかは疑問である。
特に気になる論理的に弱い部分は次の通り。
1点目(本書p.126 vs 本書p.172)
開発の梯子のいちばん下の段に足をかければ、たいていの国は上へ昇っていくことができる。・・・。豊かな国は、・・・、いちばん下の段に足がかかる程度の資本を投じればいいのだ。そのあとは、・・・、おのずと上昇運動が始まる。経済開発はうまくいく。きっと成功する。おのずと発展への道を辿る。[p.126]
vs
ボリビアは片足を開発の梯子にやっとかけたが、次の段への上昇は大きな痛みをともなうほどに遅く、また不確実である。[p.172]
2点目(本書p.142 vs 西水美恵子(http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/05060801.html))
公共予算の使い方をGDP比にして各カテゴリー別(保健、教育、インフラストラクチャー)に見ると、その国が貧困削減のためにどれくらい努力しているかがわかる。[p.142]
vs
『幽霊ドクター』という言葉もありました。公立の保健衛生施設で働いているはずの医師や看護師が、田舎では無断欠勤で不在のことが多いのです。
次の例は、『空き巣も呆れる薬棚』です。地方の公立診療所などでよくあることですが、薬棚の中は、ホコリだらけで何も入っていません。政府が薬を購入し配布しているはずなのに、どこかで消えてしまうのです。つまり、官僚や政治家、国によっては犯罪マフィアが絡み、薬品を横領しては市場に流してしまうわけです。[西水美恵子]
以上は単なる「上げ足とり」のように映るかもしれないが、この手の矛盾は書ききれないほどある。
援助増額が必要というサックスの主張に対し、イースタリーが正面から非難するのも道理である。
貴重な書
★★★★★
とても興味深かった。さまざまな世界をとりまく問題。その中でも貧困問題は棚に上げられていると思う。来年大学で経済を学ぶ私にとって、世界の現状について考える機会を与えてくれた一冊である。"
彼は確かに楽観的かもしれない。しかし、さまざまな逆境にもめげず、平和な社会の実現に向けて毎日ひたすら机に向かって最善の策を考えてる。その彼の姿に強く心をうたれた。