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悲劇の発動機「誉」―天才設計者中川良一の苦闘

価格: ¥2,940
カテゴリ: 単行本
ブランド: 草思社
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文学的評価 ★★★☆☆
 日本の敗因の一つとさえ云われる誉エンジンの問題点について書かれているが、中島飛行機の体質から始まる、エンジンの文学的評価、会社論、社会論でしかない。
 誉の問題は技術的な問題のはずなのに、技術的な問題とはなんだったのか結局明らかになっていない。戦中の資料の大半が失われてしまっていることを考慮しても不満が残る。日野自動車の鈴木孝氏が「エンジンのロマン」で、三式戦闘機のハ−四〇エンジンの「不調」の原因について調べた内容と比べるべくもない。また、記事の内容からすると著者がガソリンエンジンのことをどれだけ知っているのか疑問を感じざるを得ない。著者は、ノッキングとは何でどのようにして起きるのか、慣性力の釣合い、クランクベアリングの荷重がどうなのか、知っているのだろうか。あるいは出版社の方針で専門的なことを排除したのだろうか。
 結局、ページ数は多いが、技術を知らないヒコーキオタクが書いた記事を膨らませたレベルにとどまってしまっている。
 本来であれば、1〜2星だが、出版社が倒産してしまっていることを考慮して3星とする。
ある程度知ってる人が買う価値があるか? ★★★☆☆
 本書は「誉」エンジンの開発に直接タッチした人たちにインタビューし、「誉」が誕生した時代背景など、多角的な方面からその功罪を検討した400ページを超える力作である。しかしながら、随所に、似たような記述、似たようなエピソード、似たような批判が繰り返し表され、果たして、このような分厚い書籍、その結果として2800円という価格を付ける必要があったかというと、はなはだ疑問である。確かに、あまり事実を知らない人、発動機に詳しくない人にとっては、面白い読み物に仕上がっているが、「誉」のことをある程度知っているエンジニアや旧軍兵器マニアから見ると、ありきたりの説明、ありきたりの指摘、ありきたりの批判が関係者の証言で補強されているだけであるとも言える。残念ながら、この書籍に興味を持って手を伸ばす人は、エンジニアや兵器マニアが大部分を占めると思われる。むしろ、この手の本は、もっと専門的に、出来れば、文中で盛んに引用される岡本和理氏の「エンジン設計のキーポイント探求」(非売品、よって全体的な中身は良く分からないのだが)の内容を、氏の許可を得て中心に据え、その周りに「誉」の功罪を検証する理工学書の構成を取った方が、遥かに価値のある良書になったような気がする。もっとも、著者は文中で、日本の官僚が文系出身者で占められていることを非難しながら、このような本を、おそらく文系出身者しか存在しない(文系の)出版社から出版するのは、少々、矛盾を感じるところであるが。
 レビューとはあまり関連しないが、中川良一氏は、東大卒業後、僅か4年にして、この二千馬力級エンジン「誉」の主任設計者となった。投稿者は常々「技術者として右か左の区別がやっと付くような年季で、そんな大それた物の設計が出来るのか?」と疑問に感じていたが、証言から、大学の卒業研究のような「ノリ」で設計が行われていたようである。中川氏は、戦後、プリンス−日産自動車と、日のあたる所を歩き続けることになるが、「出力詐称、耐久性ほとんどなし」の発動機を押し付けられて死地に赴いた無名の若者のことを考えると、氏の反省心の薄さに憤りを感じざるを得ない。
我国の技術開発の問題を浮き彫りにした良書 ★★★★☆
「誉」が十分に活躍できなかった背景にヒューマンエラーが多く隠されていることを、エンジニアである著者の視点から分析し、解明した良書です。
これまで語られてきた「誉」発動機についての常識には、誤りや偏った見方があるというのが良く判ります。

中島飛行機の企業風土、当時の時代背景など「誉」企画以前に遡り、中島がなぜこのような技術的冒険に出たのか?なぜ海軍はそれを丸呑みしてむしろ後押しするほど入れ込んだのか?という兵器開発の過程での経緯、あるいは量産に入り製造現場、使用現場でどんな問題が起きていたのか?その原因は何だったのか?といったことをかなりの量の取材と資料から解明しており、非常に興味深いです。
また、先の大戦で成功した米英の航空発動機、ライバルの三菱重工の発動機開発との対比を行い、実用品のエンジニアリングとはどうあるべきかについても、専門外の読者が理解出来るように解説されています。
このあたり、物作りに関わる人間(私もですが)にとって非常に参考になります。

一方技術史だけでなく昭和史全般に興味がある人にとっても、中島飛行機のプロパーや海軍から出向で来ている監督官、海軍の航技省関係者の当時の考え方、人脈的繋がりや、組織風土など非常に参考になる情報が多くお薦め出来ます。

ちょっと残念なのは、著者が結論として述べたい主題と、それを導き出すエピソード、時系列的な物事の流れの纏め方があまり上手くいっていなくて、それぞれの印象が薄まってしまうように感じるところでしょうか。
この題材であれば、読んでちゃんと理解できる人しか読まないでしょうから、もっと論文調で章立てのはっきりした構成の方が良かったように感じます。
この点で-1評価させて頂きます。

しかし、上記のように大変優れた内容ですので、題名に興味を惹かれる方は是非お読み頂きたい一冊です。
単なる戦争ものではない本格的な技術史論 ★★★★★
この本は、吉村昭「戦艦武蔵」のような文学でも堀越二郎ほか「零戦」のような技術者伝でもない。画期的な高性能だったが、戦争突入により本来の実力が発揮できなかった悲劇のエンジン、という神話すらも否定する。むしろ、「誉」の設計は、開発戦略の基本や生産の現実を無視した技術的な失敗だったと、丁寧に論証していく。その点では、設計者中川に対しても容赦ない。実に手厳しいが、密度の高い公正で真摯な技術史論なのである。

が、とてつもなく面白く、一気読みした。

陸海軍の航空技術部門や政商中島に率いられたワンマン企業の実態がどうだったか。「省あって国なし、局あって省なし」的矛盾と戦略の欠如。功を急ぐ権力者の性急な指示や現場への介入。本来の目的や本質を外れた技術閥的対立と棲み分け的乱立。現場知らずのエリート設計者の偏重。技術スタッフの対症療法業務への乱用と消耗。窓際に居並ぶ天下り。脈絡のない技術導入や性急で際限なくくり返す新機種の投入。…実は、その血脈が戦争を越えていまの日本にも受け継がれていて、戦後の高度成長や技術立国の神話にもかかわらず、いまもどこかで同じような悲喜劇が現実にくり返されている。
MOT入門としてどうぞ ★★★★★
いろいろな示唆に富んだ作品。MOT入門としても読める。

中島飛行機に代表される日本的エンジニアリングの限界を感じる。
・製造現場の技術レベルを知らない新米エンジニアによる生産性を考えない設計
・技術の本質が分からないマネジメント層による技術方針立案
・H2ロケット開発にも脈々と受け継がれる「誉」型エンジニアリング

自社の製品も同じ陥穽にはまっていると感じる向きも多いのではないか。