もうモヤモヤボケない!
★★★★☆
何となく勝ち続けてしまった
戦争があるから、今現在の日本は
何となくボヤけているのだろう。
勝てば官軍である、戦勝国になる者たちは、
勝利の旗と、正義の旗。
同時に立てれなければ意味がない。
アメリカの南北戦争を起点とした、架空の物語を通じて、
自前でこしらえた建前の正義を考察する。
ここ数年に展開された、幾多の紛争を思い出すと、
"建前の正義"を抱えた危なっかしい国々が、いかに多いかわかるだろう。
本書の第2テーマ、
軍事性を意識した都市計画 は、成されているか?
押井守さん曰く、「民主主義」や「自由」の存在は、
「戦闘市民」によって確立される。そうだ。
戦争を体験した市民ではなく、自らが交戦する戦闘市民。
この平和ボケとヘボ外交は戦闘市民じゃない故。
犯罪発生率や地盤の性質以外にも、
あなたが住んでいる場所を、軍事面という大枠で再評価するよい機会だ。
(住民の団結力、土地の風向きも考慮すると尚良し)
南北戦争を境に、アメリカが二分割されていたら・・・
第二次世界大戦後の日本はどうなっていたのか?を軸として話は進行。
ベトナム戦争の章、日本軍爆撃屋の軍事小説は、兵器の細かい描写、
巻末には岡部いさく氏の解説付き。
ただただ饒舌。
★★★★☆
先に告白すると、押井守氏の文章を読むのはほとんどこれが初めてでした。
作品世界の(虚実取り混ぜた)出来事の歴史的経緯や政治的背景、登場する空母・航空機などの(架空の)開発史などを、斜に構えた視点で詳述しながら物語は進みます。
「日本が太平洋戦争に勝った世界の話」だと思っていたのに、いきなり南北戦争から話が始まった時は何事かと思いました。
つまり、それが作品世界の歴史の転換点だった、ということなのですが。
そして、本の後半は小説ではなく、この作品を含む「PAX JAPONICA」世界作品の今後の展望や、そもそもなぜこのような作品を書くに至ったか、という思想というか、日本論。
それはそれで面白いんですが。
小説の中で起きる「出来事」に絞って書けば、短編に納まるかも知れません。そこに濃密な蘊蓄を詰め込んでこの長さになっている感じです。
とても面白かったんですが、万人向けではもちろんありません。
「スター・ウォーズ」を見る時、冒頭の字幕を熱心に読むような人向き。
もうひとつの日本
★★★★☆
「奇才」押井守の手による、もうひとつの歴史を描いた軍事小説である。
もしアメリカが南北戦争の結果分断国家となっており、
太平洋の覇権を日本が握っていたとしたら、
という設定で物語が構成されている。
もうひとつの日本は、まさにベトナム戦争の泥沼に嵌っており
特有の饒舌によって覇権とは、戦争とは、日本とはという問いが延々と語られる。
その押井節に共感するか、それを単なる言葉遊びととらえるかによって
本書の評価は大きく異なるだろう。
本世界観に基づく連作は今後も発売されるようであり
引き続き刺激的な日本論が読めると思うと楽しみである。
勝つために戦え!
★★★★☆
日本という国には甘えの構造がある。かつて戦国期に易姓革命らしきものがあった
が、それもただ領主の首がすげ変わっただけであり、ポエニ戦争における、カルタゴの
耕地に「塩を撒いた」ローマのごとき、言語を異にする民族間の都市や国家を滅ぼ
す体の戦争を経験したことがなかった。思えば日露戦争をなんとなく勝ってしまった
ことが良くなかったのだろう。
第二次大戦におけるその準備不足、認識不足には目を被うものがある。
この本には押井さんの、そうした日本への怒りがある。
我われは生きる為に闘う。闘うならば、勝たなければならない。
そして、勝つということはその時代の正義を、その背中に負うことでもある。
勝つことには、世界に対して責任があるのだ。
この小説は、なりゆきでアジアの覇権国家となった日本という国が、世界でどのよう
に振舞うのかを描く小説である。
はたして PAX JAPONICA に未来はあるのか?
鬼才が描く新たな軍事小説「雷轟 rolling thunder」、ここに堂々開幕!!