「企業家」と「企業家活動」を考える分析的視点に向けて
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現代経済学の骨格と言える「一般均衡理論」という考え方を生み出したレオン・ワルラスの体系を正統的に継承しつつも、それを乗り越えようとした著者の、模索の過程を示す四編の短編論文を集めて訳出されたのが本書である。第1章「企業家」と第2章「今日の国民経済における企業家」(ともに1928年の作品)と、第3章「経済史における創造的反応」(1947年)と第4章の「経済理論と企業家史」(1949年)は、性質が異なるように思われる。すなわち、前者においては、自立したシステムとしての市場経済というワルラスの体系の中で、如何にして「企業家」という個人の概念を確立するのかともがいており、当時の社会主義的な状況にも混乱して、全体として硬骨であるのだが、一言で要約すれば、「企業家活動」の本質は、企業を営んでいくことよりも、「起業」それ自体にあるということを述べようとしている。後者においては、「つつましい企業家」によるビジネスの「つつましいレベルの現象を観察するのもきわめて重要なことである」(p.90)と述べるなど、著者の視点は成熟し、理論的な分析視点と、歴史資料やデータに基づいた事実探求の姿勢が、「絶えず持ちつ持たれつといった関係」(p.131)で進展していくことの重要性を強調している。巻末の「編訳者に解説」では、シュンペーター以外の研究者により企業家研究が紹介されているが、今後も様々な観点からの研究が進んでいくことが期待される。