フリードマン経済学の知的遍歴の凄み―多面的ドラマの世界がここに!
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昨今の経済危機の元凶とされる市場原理主義(自由至上主義)なるイデオロギーの世界的先導者は誰かといわれれば,文句なしにM・フリードマンの名前が挙がるであろう。本業の経済学と別れを告げた『資本主義と自由』(1962年)や,テレビを通じて世界的に放送され,ベストセラーともなった『選択の自由』(1980年)等の啓蒙書によって、彼の名前は日本でもかなり有名だ。批判の槍玉に挙げられる急先鋒に彼は位置している。望ましい資本主義の形態は3語で表現しうるとし、それを「自由な私有財産(free private property)」とした(308頁)。ここにある「自由(free)」という概念それ自体が彼の経済哲学のほとんどすべてを凝縮している(181頁)。今はフリードマンの経済哲学を再省察する絶好のときなのだ。
本書はたしかにそうした批判的営為を遂行するための手引きにはなる。が,一読して如実に感じられるのは,研究者,教育者,政策立案(助言)者,そして良き夫や頼もしい父親といった,一人の「人間フリードマン」が辿ってきた壮大な知的ドラマが軽快な筆致で描かれているという点だ。本書の真骨頂はここにある。消費関数論や恒常所得仮説(ケインズ批判)は当然のこと,彼の理論的・思想的変遷とその時代的背景の意味,数多くの友人(スティグラーやハイエクとの関係が特に印象的)とのユーモアに富んだ会話のやり取り等,読み応えるある箇所は数多い。それだけの知的魅力を有しているのは,インタビューを含む著者の周到な取材成果の賜物であるに違いない。本書を読めば,少なくとも固定観念的なフリードマン理解は大きく揺さぶられる。私がそうだった。フリードマンが発する「言葉」は常人の域を遥かに越え,時代を創った。「ミスター・ミクロ」の多面的人間像に迫った力作。彼の貢献を深く「理解」すべく多くの方に推奨したい。批判はそれからでも決して遅くない。
ジャーナリストによるフリードマンの秀逸な伝記
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2006年12月に亡くなった、20世紀後半最大の経済学者ミルトン・フリードマンの人生・思想を、歴史的背景や学術的な側面も十分に踏まえた上で、ジャーナリストらしく分かりやすく解説した伝記。主に20世紀前半最大の経済学者ケインズとの対立を軸に描かれている。
小さな政府を標榜し金融政策を重視するフリードマンと大きな政府・財政政策のケインズ。つまりマネタリストとケインジアンの対立。学会ではもはやケインジアンという言葉は死語なのかもしれないが、現実の制度の理解においては、この対立軸の理解は現在でも不可欠である。これらの経済学者の主張は、言語や歴史的背景の異なる日本においては、その結論だけでは理解できない部分も多い為、本書のような秀逸な伝記の存在は大変にありがたい。
本書では、フリードマンの思想がレーガンやサッチャーの経済運営に与えた多大なる影響について詳しく書かれている。それは同時にそれらの政策を模倣した橋本内閣の金融会計ビッグバン、小泉内閣の構造改革において、彼の思想が理論的背景になっていたことを意味する。このような視点から本書を読むと、この10年の日本の経済政策に何が起こったのか良く理解できる。多少の経済学の知識があれば読める本なので、多くの方にお勧めしたい。
反知性主義の「巨匠」
★★★☆☆
<マネタリスト、シカゴ学派、新自由主義の元祖、レーガン、サッチャー政権に大きな影響を与えたノーベル経済学賞受賞者……。>というのを読むだけでも唾棄すべきエコノミストと思わせるに十分だが、意を決して読んでみた。しかし、さらに・・・・。
フリードマンが、廃止すべき14の政策として掲げた次のような項目が、コイズミ改革と併せて称揚される「反知性主義」には暗澹たる気持ちになる。
●農産品の政府による買取保証価格制度●輸入関税または輸出制限●家賃統制、全面的な物価・賃金統制●法定の最低賃金や価格上限●細部にわたる産業規制●連邦通信委員会によるラジオとテレビの規制●現行の社会保障制度●特定事業・職業の免許制度●公営住宅●平時の徴兵制●国立公園●営利目的での郵便事業の法的廃止●公営の有料道路。
アマゾンがご丁寧にも掲げてくれているこれらの項目を心して見られよ!
ほとんどアナルコ・キャピタリズムの世界である。現に合州国では、●現行の社会保障制度などというものは無に等しい。我がニッポンでもコイズミ・タケナカ路線によって●営利目的での郵便事業の法的廃止が軌道に乗ったことは周知の通り。社会保障については、介護保険の導入を評価する向きもある(上野千鶴子)。それはともかく、社会保険全般において、制度問題のみならずフリードマン路線が着々と進んでいることは、テレビCMのアメリカ保険会社の盛況を見れば明瞭たるものあり。
そういえば、学生時代フリードマンの主著『選択の自由』を読まされたことを思い出した。フリードマンは、ハイエクや師のフランク・ナイトとは異なる。特に後者の師匠に破門されたことをマネタリストシンパは心する必要があるとだけいっておこう。
リチャード・ホフスタッター『アメリカの反知性主義』では、扱っている時代の相違もあってフリードマンには触れていないが、フリードマンこそ現代世界の(勿論ニッポンの)反知性主義の「巨匠」なのである。彼を称揚する御仁は、せめて環境問題のことくらいでも思いを馳せてみればよかろう。
碌でもないアル・ゴアすら、ケネディすらまともに見えてくる。チャベス頑張れと言いたくなるではないか!
為替の変動相場制はフリードマンのアイデア
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経済学者が世界を変えていることを初めて実感した。
日本だけは少々事情が違うようだが、金融政策によって景気や物価の安定を図るというごくあたりまえの経済学的な考えを主張し、実行せっしめたのもフリードマンだ。まして、固定制、金本位制だった国際為替相場を変動制にするアイデアをだしたのものフリードマンだ。
まさに最強の経済学者であるといえる。実感した。
20世紀を代表する思想家の1人
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経済学や経済について素人の私は、フリードマンの果たした経済学上の功績についてはよくわかりません。しかし、「市場の失敗」ばかりが語られる中で、「政府の失敗」を真正面から論じたフリードマンの思想は、「政府や官なら民間と同等以上にうまくやってくれる」と盲目的に信じていた私に強い衝撃を与えるとともに、昨今のマスコミの報道では彼の思想が如何に捻じ曲げられて伝えられているかを知りました。
本書は、そのフリードマンの生涯(家族、友人、大学生活等々)を描いた作品でした。フリードマンに興味を持ち、より詳しく知りたい人向けだとおもいます。また、巻末のインタビューでは彼がここ数年の世界の動きをどのように捉えていたかを知る事ができ、とても興味深く読ませていただきました。
(フリードマンの思想についてはそれほどページが割かれていませんので、彼の思想について知りたい方には「選択の自由」あるいは「政府からの自由」がオススメです)