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物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国 (中公新書)

価格: ¥903
カテゴリ: 新書
ブランド: 中央公論新社
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ニュースが全く分からなくなる単純史観 ★☆☆☆☆
この本だけ見れば、一体なぜウクライナに親ロシアのヤヌコーヴィチ政権が成立したのか、反ロシア派のユシチェンコがなぜ惨敗したのか、ヤヌコーヴィチとの決選投票に臨んだ女傑ユリヤ・ティモシェンコがなぜ単純な親ロシア派ではないのか、その辺が完全に分からなくなるだろう。

「ウクライナ」という概念・民族がいつ始まったのか、歴史上の地理的範囲はどこまでを指すのか、そうした問題意識がまるで無い事は、現代の歴史書とは思えない。ただただ、現代のウクライナの領土範囲であるというだけで対象が選定されている。こうした事は、著者黒川が歴史学者ではなく、外交官であり、現代政治のものの見方を投影する傾向が強い事に由来するのかもしれないが、それにしてもあまりなレベルの低さに愕然とする。問題はウクライナにとどまらず、ベラルーシ、ロシアも同様であるが、この地域のアイデンティティは未だに複雑に交錯しており、そう単純ではない。

大体、第四章「コサックの栄光と挫折」では、コサックがウクライナ人としてのアイデンティティを持っていたか未だに議論の対象になっているのだが、そのことが見事に捨象されている。

また、ウクライナ・ナショナリズムを強調する人々は、東部のコサックと、ウクライナ西部(ハールィチ:ガリツィア)とを同一のアイデンティティのもとに置きたがる傾向があり、本書でもそれは全く疑問視されずに踏襲されているが、「正教をカトリックから擁護」する大義を自認したコサックと、ユニエイト(東方典礼カトリック)が優勢であったウクライナ西部とのアイデンティティを、どのように無理なく融合出来るのか?

現代のウクライナ国家を成立させている史観が多分に無茶な歴史認識の下で成り立っている事に、意図してか無意識にか、黒川は全く触れていない。

また、ロシアが一方的にウクライナを虐げていたかのような本書の書き方であるが、ピョートル大帝のもとでウクライナ人が西欧化の担い手として重用されていた事実をどう捉えるのであろうか。ピョートル大帝時代は、ロシア正教会の高位聖職者の過半数がウクライナ人だった(127人中70人)。宗教規定を策定したF.プロコポーヴィチもウクライナ人だった。(「ウクライナ人」の定義がここでまた問題になるが、ここでは一先ず措く)。

ロシア人の中には「ロマノフ朝に取り入ったウクライナ人によってロシア正教会は西欧化され、本来の伝統を失った」とする人間も居るほどである。

一方、本書では西欧:ポーランドからの侵略には異様に甘いのだが、リトアニア・ポーランド王国ではウクライナ人は冷遇され、教会もローマカトリックに編入されていった。果たしてロマノフ・ロシアと、ヤゲヴォ・ポーランドのいずれがウクライナ人にとって真の敵だったのか?こうした視点は一切本書には表れず、ただただ親西欧偏重の記述が続く。

一部ウクライナ人がどのようなナショナリズムを持とうと構わないが、日本人が視点を一面的にする必要は無い。現役時代にウクライナの情勢分析が正当になされていたのか、著者黒川の外交官としての資質にも大きな疑問符がつく内容と言わざるを得ない。

本書を読めば、ウクライナの歴史のみならず、現代ウクライナの政治経済が全く分からなくなるだけである。ウクライナの事を知りたければ、「ユーラシア・ブックレット」シリーズの各種著作を当たる事をお勧めする。
ウクライナのアイデンティティーに触れる ★★★★☆
ウクライナはソ連崩壊後に出来た新興国だが、モンゴル帝国の進行以前はこの地にはキエフ・ルーシ公国という独自の国があり、高度の文化も持っていた。また公国滅亡後も時代の変化の折につけ独立運動を行っていた。本書はウクライナ人のルーツからソ連崩壊後の独立までの運動の歴史を俯瞰している。

ウクライナはロシア、ポーランド、トルコなどの大国に囲まれおり、その意思に翻弄されることが多かった。特にロシア革命時は赤軍、白軍、黒軍、フランス軍が首都キエフを奪い合うというきわめて複雑な情勢だった。

その様な中で外交努力によって独立を勝ち取ろうとするウクライナ人の姿にはエールを送りたくなる。特にコサックのフメリニツキーやマゼッパのあたりは彼らのキャラクターもあって大変面白い。
日本人に馴染みの無いウクライナ史を丹念に描く ★★★★☆
 ウクライナの歴史はロシアの歴史と同義である。12世紀にこの地に興ったキエフを首都としたルーシ公国までウクライナの直接の歴史は遡れる。ルーシの東北部が独立してロシアという大国になる過程で、ルーシという名称が持って行かれたため、ウクライナという呼び名をすることになる。その後は紆余曲折を経て、ウクライナという国・領地は歴史から数百年消える。

 ソ連解体と共に独立したウクライナは、広大な土地と肥沃な大地、工業基盤を持つ大国として堂々と国際社会に登場した。それまでの苦難の歴史は本書に譲るとして、大戦の被害者として振る舞うポーランドも、ウクライナに対しては結構やることはやっていたという事実が印象的だった。
豊饒なるがゆえの過酷な歩み ★★★★☆
 ウクライナなる国、日本人にとってお世辞にも馴染み深いとは言えません。小生も、麦がたくさんとれる穀倉地帯としてのイメージしか持っていませんでした。国や民族の歩みについても、恥ずかしながら、ロシア人の亜流か何かでソ連崩壊のドサクサで分派したくらいの認識でした。しかしながら、著者によれば、ウクライナは独自の文化、長い伝統、そして国運隆昌の記憶に恵まれた大きな存在だということです。目からウロコという感じです。
 さて、本書は、中公新書の物語各国史シリーズの一冊であり、著者はウクライナ大使を務めた外交官です。役人の書く文章というものは味も素っ気もないというイメージがありますが、外務省の皆さんは例外なのでしょうか、本書の語り口は明瞭にして平易、ウクライナの「ウ」の字くらいしか知らない小生でも、比較的楽しく読みすすめることができました。
 内容的には、スキタイの昔から筆を起し、この土地を舞台とした民族と人々の歩みを概観しています。キエフ大公国の栄光、リトアニアやポーランドとの確執、コサックたちの独立不羈の危害と運命のペレヤスラフ条約、長くて過酷な異民族支配と戦争・内乱の悲劇、そして350年ぶりの独立回復など。
 こうした歩みを概観してみると、そもそもウクライナは誰もが食指を伸ばしたがる豊饒の大地であり、人口的にも資源的にも、東欧において抜きがたい存在感を発揮してきたことが分かります。他方、それまでの大国的資質を備えながら、自らが一方の雄として立つことができず、近隣諸民族によって翻弄され続けてきたのは一体何故なのかと慨嘆せずにはいられません。国家の主権と独立を全うする上で一番大切なものは何か。そんな堅苦しいことを考えさせられる一冊でした。
好著!! ★★★★★
例えば「ありがとう」はロシア語で「スパシーバ」なのに対し、ウクライナ語では「デャークユ」だというように、“ウクライナ語”というものがあることを知った時、ウクライナの歴史に興味を覚えた。そして出会った本書だが、日曜日の朝に手に取り、その日の夜までに一読してしまった…

「物語 ○○の歴史」シリーズは、各々に工夫して世界の諸地域の歴史へ読者を導いてくれる好著が多いが、これも例に漏れない!!

神話や伝説の昔から、年代記が綴られている中世、近世、近現代、そしてウクライナが独立国になった最近に至るまでが通史的に語られている。“国”を有しなかった時期が長いだけに語り難いかもしれないウクライナの歴史だが、非常に概観が掴み易いまとめ方である。

これは歴史学者による著作ではなく、外交官による「ウクライナを日本にご紹介」という著作であることも手伝い、非常に読み易い。交流が始まって、歴史も浅いウクライナだが、何かで「ウクライナ」と聞いて興味を覚えた方には大いに勧めたい!!