話題の偏りに辟易
★★☆☆☆
星新一の掌編小説を素材に、彼が描いた近未来の実現として現代を考えたエッセイ。私が本を急いで読むのは、ひとつは面白くて続きが待ちきれないとき、もうひとつは時間が惜しくて早く読み終えたい場合で、残念な事に本書は後者であった。
元々私は、素人が医学を論じるのを読みたくない。余暇にまで仕事を持ち込みたくないのだ。しかしそれ以上に、どんなに立派なことを書いていても現場感覚を欠いているようで、「何を勝手な事を」と思ってしまう。安全な場所からきれいごとを言われているようで嫌なのである。医学が人間のためにある以上、受益者である一般人の論理に医学が追従せざるを得ないことは理屈ではわかるが、彼らが当然のように正義を振りかざすことが不愉快である。しかもこの論理は一部のマスコミ人の論理に過ぎない(世論は彼らが作るのだ)。ここで著者は執拗に生殖医療、再生医療を俎上にあげる。恰も星新一を利用して著者自身のマイブームを読者に強制するように。しかも著者の判断は寸止めされ、疑問の提示のみに終わる。判断を読者に任せる、というよりも、未整理な印象である。文体もときに乱れて意味不明となる。
あとは個人情報の話題が多い。これも考察の踏み込みが浅いと感じる。なお、「たばこ天国」(p.115)では著者の不当なたばこ擁護に呆れた(化学物質過敏症という病気があるのを知らないか!副流煙の害は当時すでに知られていたが、なぜ口を閉ざすのか!)。一方、「人体の不思議展」(p.298)のいかがわしさの告発には強く同感した。当時私は、大衆に死体を展覧するなど要するに恐いもの見たさの「見世物小屋」ではないか、と非常な違和感を持ったのだ。
総じて話題の偏りに辟易しながら読んだ。読書の充実感もない。それでも最後まで読み通せたのは、星新一が創造した素材の魅力を、確かにある程度は読者に伝え得ているからであろう。たぶん。
膨大な知識量から生まれた預言
★★★☆☆
ネット社会、臓器移植、ロボット工学、医療関係、さまざまなテーマを
取り上げている星新一のショートショート。書かれてからかなりの年数が
たっているが、そのどれもが色あせることなく、今も新鮮な驚きと感動を
持って読むことができるのには本当に驚かされる。その中には、まさに
未来を予言したといっても過言ではないものがある。それは単なる想像の
産物ではない。膨大な知識量がある星新一だからこそ書くことのできた
ものだ。ほかの人には決してマネできないだろう。科学のめざましい発展は
続いている。今の世の中を見たら、彼は何を感じ何を思うだろうか?また、
これから先の未来をどんなふうに描いただろう?この作品を読みながら、
そんなことを考えずにはいられなかった。
要するに最相氏が未来を憂いだエッセイ集です。
★★☆☆☆
星ファンとして購入してみましたが、巻末の星夫人との対談の中で、
星夫人が話されている通り、この本は「星の小説を元に最相さんが考えたり
感じたことを綴ったもの」です。それも最相氏の得意分野「生命科学」に
関する内容が大部分を占めます。そして、他の方が指摘されている通り、
取り上げた星氏の短編をひっくるめてネガティヴな結び方をするお話が
多いので、読んでいてあまりいい気持ちがしません。
ただ、そういった内容になった理由として解説の福岡氏が、現代科学が
あまりにも、モラルや現実的な社会状況を見据えていないことに最相氏が
半ば絶望を感じているからではないか、と指摘されおります。
正直この本、読了するには辛いものがありましたが、この福岡氏の意見で
大いに納得させられました。
著者の持論がとうとうと語られる。
★★☆☆☆
先ず、書名と内容に大きな隔たりがあり驚いてしまう。
星氏は未来を希望を込めて明るいものと想像し、その中で
エンターテインメント性を持たせるために未来の技術やデバイスを
悪用する未来人を登場させていると思うのだが、
最相さんの話はとにかく暗い方、暗い方へ突き進む。
読み進むうちにうんざりしてしまう。
未来はただ明るいだけであるはずは無いが、ウイットに富む星氏の
小説の考察であるなら、そこに孕む暗黒面についてももう少し面白おかしく
話を膨らませて欲しい。作者は本当に星氏の小説を楽しんだのか。
星氏の小説を利用して、自身の得意分野の取材で得た知識や持論を
これでもかと押し付けてくる。さすがに最相さんも少しまずさを
感じるのだろうか、その免罪符としての星夫人との対談。
星新一氏も草葉の陰で苦笑しているのではないだろうか。
なんといふ空疎な
★☆☆☆☆
大物漫画家の物故後、残された出版社やプロダクションが遺産であるキャラクターを古びさせまいとあの手この手なのを見ていて思う。「大変だなあ」と。しかし、どのような場合でも忘れてならないのは、漫画家の残した遺産への理解と愛情であろう。
さて、本作。副題に「星新一の預言」とあることからも判るように(何故「予言」ではないのだろう)時事風俗を扱わなかった作家、星新一のショートショートを現代の時事風俗と結びつけて論考し、「星は未来を予言していた」的な結論で結ぶエッセイ集である。例えば「声の網」はネットの先取りである、とか。
しかしながら惜しむらくは、著者の「私の言いたいこと」があまりにも全面に出過ぎ、引用されたショートショートとエッセイの内容の乖離が激し過ぎる点である。明らかなこじつけ、テーマの誤読(私見だが、「最低十人に転送してください」など、まさしく採り上げられたショートショートの中で星新一が皮肉った人々の心性に、作者自身が陥ってしまっているように思う)が多々見られる。中には、「あれ、そのテーマなら星新一の作品の中でもそれじゃなく、『○○』を採り上げた方が……」と思われるエッセイもあったのだが、あとがきで作者が星新一の作品に関して、中学時代に読んで以降、最近に至るまで全く読み返しておらず、内容もすっかり忘れていたこと、本書の元となった連載も、作品を読み返しながら続けたことを邪気なげに告白しているのを見て、全身の血液が猛烈な勢いで逆流するかのような衝撃を覚えた。
星新一が好きならば、読まない方がいい。好きな作品がこんな形で踏み台にされているのを、喜ぶファンはいないであろうから。