現代人、特に若い世代には、決して読みやすいとは言えないかも知れないが、日本語のかつて持っていたリズム感などの美しさを体験するには、この本のどこでも良い、気に入ったところを気の向くままに声に出して読むと良い。このことは、本版の校訂者も勧めており、ルビを振るなどにおいては、それを目的としたとのこと。「ミラノ、霧の風景」で有名になり急逝してしまった須賀敦子さんは、イタリア留学に際して、お父さんから「日本語の美しさを忘れぬよう」とこの本を持たされたという。鴎外によると「国語と漢文とを調和し、雅言と俚辞とを融合せむと欲せし、放膽にして無謀なる掌試」とのこと。けだし、声を出して読む日本語にふさわしい文語文となっている。