京極編『番町皿屋敷』
★★★★★
巷説百物語シリーズのサブストーリー長編にあたる『嗤う伊右衛門』、『覗き小平次』に次ぐ古典改作の第三弾。
一枚、二枚・・・九枚・・・とお皿を数えるお菊さんの幽霊で有名な『番町皿屋敷』の改作です。
装丁もさすがの京極作品。カバー表紙・裏表紙に描かれているのは『井戸』と『月』ですが、カバーをめくるとまた様子が変わります。ほかにも目録の各章タイトルは『××数え』と『数えずの××』が交互に並び、章がすすむごとに各章表紙・裏表紙の『明』と『暗』が混ざり・・・と、本作に添えられる細かい仕掛けがそこかしこに。
前二作と同様に古典ホラーがモチーフですが、(一部短編を除き)京極作品に共通していることは、劇中にはいわゆる『心霊現象』は登場しないということ。
京極作品に『心霊的な怖さ』を期待すると、少々あてが外れるかも・・・。
さて番町皿屋敷についてはオリジナルというものがはっきりせず、番町、播州、講談、落語・・・等々さまざまなアレンジが存在するわけですが、それら各種アレンジの主だったあらすじが、序章で一気に語られます。
いずれも『菊哀れ』『菊無念』であることは共通しており、本作も則した内容に仕立てられています。
読了後、どうにもやりきれない切なさ・哀しさが残るため、細部に救いを求めあらためてこの序章を読み返したところ、語られたあらすじの要素すべてが本作に盛り込まれていたことに気づき嘆息しました。
ところで、一番知られている『番町皿屋敷』に登場する主って、青山播磨守主膳ていうのね・・・なるほどぉ。
数えずの井戸
★★☆☆☆
京極流「番町更屋敷」は、内容も個性的で理解不能な
キャラも楽しめました。
ただ、読んでいくうちに、菊が宮部みゆき作「弧宿の人」の
主人公のキャラと、みんな死んでしまうという展開に類似性
を感じてしまって、しらけてしまいました。
ちなみに弧宿の人は・・・・つまんなかった。
読ませる趣向が秀逸です
★★★★☆
1月に出ていた京極夏彦の新作長編。 『嗤う伊右衛門』 『覘き小平次』続く、古い怪談を題材にしたシリーズ第三弾。今回は番町皿屋敷。
このシリーズ、全体のトーンは美しくも登場人物の鬱々とした内面が語られるのが読み進めるのに少し辛いところがあるのですが、今回は構成に趣向が凝らされておりこの分厚い本を一気に読ませてくれました。面白かった。
各章でそれぞれの登場人物がその時々の内面を語りつつ物語が進んでいく構成で、重くなる寸前でテンポよく読ませていく工夫がなされている。
巷説シリーズで見られる書き出しの統一とページの装丁の妙もあり、これらが合わさって静かな印象の語り口にリズムを与えている。この「本」そのものの隅々までそういった仕掛けが施されている感じ。文庫本になるとどうなるのか見てみたいものです。
おなじみの巷説のメンバーも登場しこの時代の世界がどう広がっていくのかも楽しみなところ。
狡い。
★★★★★
京極夏彦さんの本を読んだと実感させてもらっています。さあ楽しもうか、といった具合に一日一段落と決めて牛の反芻みたいにもたもたと。大勢のひとに読んでもらうことを考えてなのか、やはり肝心の部分を覆う被膜が拡大する箇所が著われるにあたり、そして読み終えたいま、果たして新訳と考えてよいのか心が揺れてしまいます。ほかの作品やほかの会社の小冊子で辻褄の詳解なんて蛇足は生えませんように。この本すっきり好きとはいえません。
胸がいっぱい
★★★★★
もうこれは、大好きです。またいい本に出会ってしまった・・・と読み終わったあと胸がいっぱいになりました。切なくて、ラストが泣けます。それぞれの登場人物の視点で書かれているため、それぞれの気持ちが胸に染みてくるようで、ジーンと来ます。京極堂シリーズのようにちょっと飽きてしまうような途中の語りもなく(京極堂シリーズも大好きですが・・・)、かといってそこは京極作品、物足りなさはまったく感じさせず、読みやすく読めました。感想は人それぞれとは思いますが、私はこういう「薄っぺらくない人間模様の感動もの」が好きです。
なんといっても、文章がうまい作家さんの本は呼んでいて気持ちがよいですね。本全体に漂う空気はけして明るいものではなく、「マッタリとしたどんより感」が流れていると思いますが、それすらも私的には心地よいです。
ボリュームはありますが読んでいてしんどくないので、ぜひ読んでみてほしいです。大満足の一冊でした。