「ほう」から「方」へ、そして「宝」へ
★★★★★
上巻は読むのに少しもたつきましたが、下巻は一気に読めました。
おかげで、夜2時半、床につきました。
久しぶりに面白い本に出会いました。
この幸福感は何にたとえたらいいのでしょう。
悲運の少女をまわりの人々が世話をやく。
「ほう」という名は阿呆の「ほう」からきている。
少し頭の回転は遅いが、人を疑うことを知らない純真無垢な少女はさまざまな出来ごとに出会うが彼女には欲がない。
領民が「悪霊が来た、災厄を持ちこんで来た」と恐れる「加賀殿」と「ほう」はいつしか心を通わすようになる。
この二人のやりとりを描いた場面は秀逸です。
「ほう」は阿呆の「ほう」から「方」へ、そして「宝」へ。
若い医師が言います。
「あの子を通し、この私も御仏のお顔を垣間見たようにさえ思います」
さらに、こんな一節があります。僧侶が宇佐(ほうを妹と思い世話をする女性)に諭す場面です。
「加賀様の身は人のままだ。儚く、空しく、卑しい人の身。
じゃがその奥底には御仏がおわす。
御仏がおわす故に、人はけっして鬼や悪霊にはなれぬ。なりきれないのだ。
いっそなれた方がはるかに楽、はるかに安穏であろうにな。
わしはそのことがわかっておる。
加賀様の御心情は知らずとも、
それだけわかっておれば、人の理(ことわり)はわかる。」
人は奥底に御仏を宿しながら、板ばさみの状態になった時、
急に鬼や蛇に変わる。
人とは何と脆いものでしょうか。
でも、この弱さを知って、はじめて人が許せるのではないでしょうか。
世にはきっとこの様な方がおられるのでしょう。
心のふるえる書物を読みたいと思っておられる方、お薦めです。
得意分野で本領発揮!
★★★★★
上巻下巻合冊レビューです。
「震える岩」でデビューしてから私の好きなところは
丁寧な話の展開、得意分野は子どもを描くのが上手。
桐野夏生さまがおっしゃっていました。
「ブラックなものをだして書いたあとすっきり」
しかし、宮部みゆきさんには現代の殺人は似合いません。私が思うに。
人を殺す理由が浅すぎる感があるからです。現代小説に限って。それが現代なんですけど。
この作品は上巻を読んだあと私は悪夢にうなされました。
そして下巻を読んで涙しました。
本についてる紹介文はちょっとおどろおどろな感じがしますが
その理由が読み終わればわかります。
丁寧な話の展開。ちとちりばめかたが上手いの
かちりばめすぎかは好みによりますが。
情を感じ、子どもの無垢な心に大人の心が動かされると思います。
読み終わったあと自分の中に見えるのは鬼か仏か?
私自身は自分の欠点が指摘されたような気がした本でした。
素直に、感動しました。
★★★★★
手元に読む本が無くなり、祖母の本を借りました。
宮部みゆきは、少年物しか読んだことが無く少し抵抗が有ったのですが…良かったです。
歴史物自体、普段あまり読まないのですがこれはすごく読みやすいですね。
どんな話なんだろう、と思いながら読んでいたのですが最後の方は電車の中で物悲しい気持ちになりました。
こういった終わりの作品はあまり好きでないのですが、素直に受け入れる事が出来ました。
途中の人間関係の歯がゆさに、胸が苦しくなったのを覚えています。
恋愛関係に関しても、サッパリしていて、それでいてネチっこい素晴らしい書き方だと思います。
良い意味で、女性らしい作品だと。
久しぶりに、何度も読み返したい、また、誰かに自信を持って勧められる作品に出会えたと思います。
宮部みゆきの他の歴史物にも手を付けてみようと思います。
弧宿の人
★★☆☆☆
「誰か」から、どうも昔の勢いがなくなってきたような気がします。
オビに惹かれて読んでみましたが、登場人物はそれぞれ魅力が
あるので、全くつまらないわけではないのですが、テンポがとろく
退屈で、期待はずれでした。
円熟の技
★★★★☆
物語の骨子は、いかに形式重視の江戸武家社会が前提と云えども無理があります。
落雷の利用の仕方なども、文系ならではの無茶振りですね。
ただそんな事を無視できるくらいの筆力で描かれた作品です。
特にキャラクターの活かし方(あるいは死なせ方)。
作者の盟友であろう京極夏彦の造形した「又市」的に言えば「人死にが多すぎる」ということになるでしょうか、その冷徹な描写が見事です。
読者がある程度思い入れをするくらいにキャラを造形しておきながら、その死を至極あっさりと、場合によっては伝聞という形でしか描かないことで、大筋の荒唐無稽さを凌ぐリアリティが醸し出されています。
自ら生み出したキャラに溺れてしまう凡百の作家とはレベルが違いますね。
ことばとおとの日々
★★★☆☆
「孤宿の人」である主人公?が初めて登場するのが、上下800ページで、なんと450ページくらいいった所。全編を通じて、主人公が何人もいる物語といえる。地理的モデルは讃岐丸亀藩。主人公の一人「ほう」の意味が、阿呆の呆から、方向の方へ、そして最後に宝(ほう)になっていくことが主題なのだろうと思う。
My Favarite
★★★★☆
宮部みゆきの歴史小説は、何となくほっとさせるものがあります。
この小説もひとりの少女が乱万丈の人生とその周囲の大人たちの複雑な動きを描きながら、最後にはやはり安堵感を味わえました。
楽しめる一冊だと思います。
柊舎《目指せ、1日1冊!》
★★★★☆
●11月新刊文庫●
江戸から金比羅代参に連れ出された九歳の少女・ほうは、丸海藩で置き去りにされた。
藩医を勤める家に引き取られるが、面倒を見てくれた琴江が毒殺された。
その頃丸海藩は江戸より幕府要人でありながら、家人や家臣を惨殺した咎で幽閉されることとなった加賀様を預かる。
それを機に不審な毒死や謎めいた凶事が相次ぐことに…。
◆不幸な生い立ちの少女・ほう。ほうは阿呆のほうだと言います。
確かに幼く、足りないようでもありますが、それは彼女が誰にも育てられず、何も教わることがなかった故なのです。
そんな少女が巻き込まれたのは、何と言うか藩のための大人の事情や思惑ってやつです。
大人の事情なんて判りはしない…。
言っている方だって本当は腹の中に色々溜め込んで、決して納得出来ていないのですから…。
だけどそんな人の事は構いもせず、事態はどんどん進んでいきます。
悪霊と噂される「加賀様」、城下に広まる噂、そして続く人の死…。
悪霊よりそれを利用しようとする人の方がどんなに怖いものやら。
そんな中であるからこそ、ほうの愚直なまでの素直さが、悲しいこの物語の中でとても救いでもありました。
色々ネタに触れそうなので、あまり語りたくないので、読んでいただきたいですね。
へむぼん
★★★☆☆
●上下巻 ●宮部氏の作品の中で、いちばん心に残っている作品です。怒濤のように押し寄せる「絶望感」。それでも目が離せないストーリー展開。そして、ラストに待っているのは…。