薄暮に開く異界への扉
★★★★★
昼と夜との境目が曖昧になる夕暮れの時間帯。黄昏時や大禍時(逢う魔が時)など様々な呼び名があるこの時間は、昼と夜だけでなく色々なものの境目をぼかしてしまう。
『Magic Hour』は、そんな薄暮の世界がどこまでも延々と続いている。
アコースティック・ギターとベースによる簡素で朴訥とした演奏をバックに、フォーキーでノスタルジックなメロディが流れていく世界。
この音楽を聴いて、あなたは田舎の夕暮れのような甘酸っぱい情景を想像するかもしれない。そんな田舎の田園風景の中、あなたは今までみたことのない生き物に突然出くわす。怪物かもしれないし、妖怪かもしれない。とにかく、得体の知れない生き物だ。
ただ美しいだけではない。薄暮の時間帯がもっている美しさと不気味さがこの世界にはある。学校からの帰り道、いつもの四辻を横切ろうとしたら知らない場所に来てしまった。あちらの世界とこちらの世界の境目が曖昧になり、繋がってしまうような、なんともいえない日本的な暗さがミソであると思う。
美しい夕暮れの後には深い夜の闇が口を開けて待っている。早く帰らなければ暗くなってしまうという現実的な不安と、暗くなると何かが現れるという空想的な不安が、この音世界にはある。
安易な宅録フォークと思うなかれ。美しいゆるさの中に浸っている。すると、そのあまりの美しさに寒気がしてぞっとする。これみよがしに暗くないのに、何故か暗さを感じる。そんな稀有なフォーク・アルバムだと僕は思います。
こんな世界はなかなかありません。幼少期の薄暮のトラウマがよみがります。