これらの国々では資産を「眠る」資本から流動資産に転換するための、細かい法律の制定とその標準化の遅れが、むしろ根本的な問題と言える。西洋先進国には標準的な法律があるから、たとえば家を抵当に借り入れをして投機的事業をすることができるし、企業資産を多くの公開株式に分割することも、近隣や町や地域で合意のとれた規則を適用して財産を管理し査定することもできる。西側先進国ではあたりまえの(アメリカではたかだか100年の歴史しかないものの)、目立たない「資産管理」面での社会基盤の不備が、資本主義がうまく機能しない要因である、というのが著者の論点である。その環境を整えるためにはもちろん法整備が不可欠だが、著者によれば、それを社会の標準とするのは「態度」の変革を要する、きわめて政治的な問題なのである。
デ・ソトは自らの主張を裏づけるため、研究者グループと共に、経済苦境にあえぐ世界の国々から詳しい証拠を探し出した。その結果が、多くの国々において健全な自由経済市場の発展を妨げている1つの条件に関する、非常に実証的で興味をそそる本考察にまとまったのである。