ねじ伏せる文体、引き込む文体、語る文体、山田風太郎は三遊亭園朝なのである
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ストーリーテリングの天才。湯水のように湧きても尽きないアイデア。
誰もが言うことだが、私はこの風太郎翁の文章に感じるのは、
ねじ伏せるような文体の力である。しかし、力ずくでありながら、
嫌な感じは受けないのである。
例えば由比正雪を書いた次の文章
「この由比と言う男には、二三語、押し問答をしているうちに、フラリと
相手をじぶんの註文にのせてしまう奇妙な呼吸がある」
と、ここまでで書いて思ったが、山田風太郎は三遊亭園朝なのである。
忍法帖、一二を争う大作
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忍法帖のファンになるずっと前から、「魔界転生」の名は聞き及んでいました。映画などの予告を見て何のゲテモノかと思っていました。忍法帖にはまってみてびっくりでした。まさか魔界転生が山田風太郎先生の書だとは。
読んでみれば見事な決闘の緊迫感、人々が平気で死んでいく先生独特の虚しさ、巧みな風景描写。さらに先生のお手並みで最も感動するところは、史実に絡めて物語をお書きになり、その事物が歴史的に不明か先生のご想像であっても真実であったと読者に信じさせてしまうところです。いくらその時代について造詣を深めても、無理なく信じさせてしまうのです。
また、後まで生きている人を平気で殺してしまったり、その人物が史実では後まで生きていることを紹介してみる荒唐無稽さがこれまた面白いのです。
残念だったのは、「柳生忍法帖」で十兵衛並の手練れかと思われた「柳門十哲」が唯の達人になっていたことです。物語上仕方のないことですが。
魔界転生ほどの大文章が今日なぜあのように軽んじられ、安く映像化されるのか残念でなりません。奇抜なエンターテインメント性の高さが災いしたのでしょうか。出版当時にこういった作品が少なかったがために、現代までも俗な映像娯楽の原作とされてしまうのでしょうか。先生の分断での扱いが不当に低いのは少なからずこのせいもあると思います。
ちなみに、転生するのは男だけ、細川忠興の夫人は出ていなかったように思います。
面白さの求道者
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山田先生は常にそのユニークな発想と緻密な構成力で我々を楽しませてくれる。だが、最高傑作はやはり本作だろう。何度も映画化、TV化されているので、ストーリーをご存知の方も多いだろうが、何度読んでも(観ても)面白い作品である。
「魔界転生」という妖術で甦った、天草四郎を中心とする、宮本武蔵、荒木又右衛門、柳生但馬守、ガラシャ夫人等。彼等は森宗意軒、由井正雪の企みに乗って、現世で晴らせなかった怨みを晴らそうと幕府転覆を図る。これを防ぐのは柳生十兵衛。武蔵などは元々剣豪なのに、既に鬼籍の身であるから怖い物なしである。この武蔵vs十兵衛の対決。但馬守vs十兵衛の親子対決。凄まじい迫力である。ガラシャ夫人の妖艶さも作者らしく濃密に描かれる。
山田先生はこれだけ読者を楽しませてくれる作品を数多く提供してくれたのに、文壇での扱いは低かった。読んで面白い作品を提供する事の素晴らしさを理解しているのは我々読者の方であろう。その意味で、山田先生は面白さを追及する求道者と言えるだろう。その中で、本作は全体構想は勿論の事、子供心に思った「宮本武蔵と柳生十兵衛が戦ったらどっちが強いんだろう」、という素朴な疑問(多くの人が抱いたと思う)に明快な回答を与えてくれた画期的傑作。
オリエンタルなファンタジー
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山田風太郎の最高傑作と言われている作品だけに面白い!
凄腕の剣豪達が、西洋の黒魔術と日本の忍法を合体させた忍法「魔界転生」で蘇る!
それに対抗するは、「天下に並ぶ者無し」の柳生十兵衛!
柳生忍法帖での十兵衛ほどの魅力はないですが、それでも充分魅力的で、格好良いです。
そして戦う敵も、十兵衛にとっても恐るべき魔人達!
柳生忍法帖での、会津七槍衆よりも恐るべき敵であり、最初からかなり苦戦していきます。
でも、この上巻では、転生衆達の方が目立っており、その転生衆と、木村助九郎、関口柔心、田宮平兵衛との勝負が凄い!
とにかく、最近でも伝奇小説が発売されると、『平成の魔界転生』『あの魔界転生を越えた』と比較されるだけ合って、面白いです!
まさしく伝奇小説の最高傑作です!
「柳生」も併せて読んでみてください。違った十兵衛が読めます。
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忍法帖シリーズ中、若干趣を異とする本作。
本作は、対忍術ではなく、あくまでも対する敵は死人といえども剣豪陣なのでチャンバラなのである。
十兵衛という江戸時代を代表する剣客が‘もし’かの「・・・・と対決したならば」という夢物語を小説化したのが本作で一級品のエンターテイメント小説に仕上がっています。
しかし、分量の多い本作だが、どうも一本調子。
(ストーリーは、十兵衛が名だたる剣豪を順次撃破。
そして、最後は一番十兵衛が向き合いたくない人物と立ち向かう。といった筋立て。)
着想が奇抜だっただけに残念。
また十兵衛も「柳生」に比べると人間味が薄く感じられます。
「柳生」での十兵衛が確り描かれているだけに物足りなさを感じてしまいます。
批判的コメントを連ねてしまいましたが、本作がシリーズ中Aランクに位置するとは思います。
だって、ラストの余韻はシリーズ中、白眉だと思いますので。