世界を多面的に眺める
★★★★☆
グッドマンの「世界制作の方法」は,世界は多面的に見るべしというテーマで抜かれているように思います.
西洋的な思考は,歴史的に学問の細分化を進める一方で(根底では)世界を整理する単一の座標系を模索しつづけている,と考えられます.どの時代の思想家・哲学者も結局は,究極の,たった一つ「世界の眺め方」を標榜しています.
つまり西洋的な思考は,(数学的な言い方をするならば),(1)小さい次元で(2)どの対象にも適用可能な,座標系を求める.つまり平坦な多様体として世界を眺めるという傾向があります.このあたり,複雑な世界は複雑なまま「混沌」として受け入れましょう,という道教や禅のような東洋的な思考とは相容れません.
翻って,この本でのグッドマンは,世界を眺めるときに外延指示その他に関する言語論的な問題に拘泥するよりも,異なる見方の多様性と異なる見方相互の「重なり」に関心を集中させます.(グッドマンが引用の問題に拘るのは,そこに理由があります.)
結局,世界を調べるときに,万能の単一の座標系なんてない.局所的な座標系を豊かにしつつ,異なる座標系間の座標変換を明確かつ整合的にしましょう.つまり,「世界を多様体として見るのだと」いうマニフェストにこの本は読めました.(哲学マニアには反発受けそうなまとめになってしまいました.)
世界を「制作する」という言い方は,個人的・主観的に世界を「見る」ということに自分の考えはとどまらないぞという,グッドマンの矜持でしょうね.
ネルソン・グッドマン、この名はもっと知られて然るべし
★★★★★
「多くの世界があるというのは、正確にはどういう意味でなのか。本物の世界をいつわりの
世界から区別するものは何なのか。世界は何から作られているのか。世界はどのようにして
作られるのか。その制作にさいして記号はどのような役割をはたしているのか。さらに、世界
制作は知識とどのように関連しているのか」
これらが本書において取り上げられるべき主題。キーワードは、例えば「ヴァージョン」。
あるときは認識論、あるときは存在論、あるときは芸術論。
イギリス経験論の香りをはらみつつ、カントの香りを漂わせつつ、分析哲学の香りを放ち
つつ、パラダイム論の香りをまといつつ……そんな知の重層性に加えて、誰とも違う氏特有の
思索のアプローチが交わった濃密な一冊。
パトナムやクリプキが好きなら買っておこう!
★★★★★
入手困難だったグッドマンの主著が文庫になってる!
あわてて購入しました。みると訳も見直されておりうれしい。
グッドマンは最初は論理実証主義者っぽところもあって、反事実的条件
法の分析や「グルーのパラドクス」など言語哲学のテクニカルな部分での
イメージがあったが、本来は言語哲学自体を乗り越えることを模索していて
いたのだなあ、懐深いのだなあと、いまさらながら「世界制作」という哲学
らしいタイトルをみて感じました。邦訳は少ないけど、パトナムの「内在的
実在論」へも影響を与えた人物。1998年になくなりました。
没後十年、最近のちくま文庫のなかでもこれはなかなかのイイ企画では
ないでせうか。
やっと・・
★★★★★
ついに復刊ですね。早くゲットしないとまたプレミア価格で買わなきゃいけなくなりますよ。
待望の文庫化!
★★★★★
グッドマンほど我が国で冷遇されてきた哲学の巨匠はいないだろう。最近刊行されつつある某大手出版社の哲学史シリーズ――日本人研究者が書いたことがウリの――でも見事に無視されている。さて本書は本国アメリカで刊行されるや大きな反響を引きおこした問題作であり、グッドマンのメタ哲学ならびに記号主義を事例に即して懇切に展開した、グッドマン哲学への最良の入門書(あるいはそれ以上)だ。かつて、みすず書房から刊行されたが長らく品切れになっていた。哲学に関心のある人だけでなく、工学系やデザイン関係者などに読まれていたらしいが、容易に入手できなかった。古本相場も高かったし、第一古本屋の店頭に出なかったのだ。今回文庫化されたが、早速確認したところ、訳や注も改善されていて格段に読みやすくなった。訳者による解題や用語解説も資料として役にたつ。