著者はパリ在住15年。サン=ミッシエル広場近くに住み、「ノートルダム寺院まで1分、ルーヴル美術館やオルセー美術館も(歩いて)十数分の圏内」とはうらやましい限りだが、お決まりの観光スポットもその街に住む人にとっては違う顔を持つ。著者は友人たちとの交流、素朴な疑問・好奇心、一筋縄ではいかないフランス人の「エトランゼ」の心などに思いを寄せる一方で、歴史の舞台としてのパリへ自由自在に想像を巡らせる。本書は、そんなパリの1区から20区までにまつわる逸話をつづったエッセイである。
「観光のために書かれたガイドブックではなく、住んでみたパリ」とあるが豊富なカラー写真は観光都市の宿命か、ガイドブック風を免れない。しかし本文は少々饒舌だが血が通っており、昔気質の厳格な女性教師や無愛想だがセンスは抜群の花屋など、市井の人々が魅力的に描かれている。パリ暮らしをのぞき見た気分になれる本である。(林ゆき)