戦場で大怪我を負い、神への道を選んだイグナチオは、バルセロナの学院で運命的な出会いをする。その人物こそ、若き日のフランシスコ・ザビエルだった。イグナチオに傾倒し、聖職者となる決意を固めるフランシスコ。しかし、世界経済の成立を大きく促す大航海時代を迎え、布教もまた経済活動と無縁ではいられず、フランシスコの選んだ道は厳しく険しいものとなる。やがて、信仰に生きるフランシスコ、中国人の海賊、ユダヤ人商人、日本を追われた侍らが、それぞれの思惑を胸に、鹿児島の大地を踏みしめる。
しかし、フランシスコの命を賭けた偉業は、わが国で結実することはなかった。医術、武器、造船技術など、宣教師たちは、わが国に多くのものをもたらしたにもかかわらず、「信仰だけは無用だった」と著者は結ぶ。本書に、そこはかとなく漂うやるせなさは、現代社会にも通じる倦怠感でもある。本書で描かれる宗教と経済の有り様は、密接に関わりあいながらも決して交わることがなく、それはまた、現代社会にも深く共通するものである。ひとりの宣教師のまなざしを通しながら、著者は、はるか21世紀の世界の姿をも見据えようとしている。(中島正敏)