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フランシスコ・X (講談社文庫)

価格: ¥600
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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   優れた言語感覚と軽やかな文体で、1983年に鮮烈なデビューを飾った島田雅彦。その作風は縦横無尽ともいえる広がりを見せ、夏目漱石の名作を彷彿とさせる『彼岸先生』、そして『彗星の住人』をはじめとする大河ドラマ「無限カノン」シリーズなど、意欲作を次々と発表し続けてきた。その中でも、とりわけ異彩を放つのが、初の歴史小説となる本書である。舞台は16世紀ヨーロッパ。物語はイエズス会の創始者イグナチオ・デ・ロヨラのエピソードから始まる。

   戦場で大怪我を負い、神への道を選んだイグナチオは、バルセロナの学院で運命的な出会いをする。その人物こそ、若き日のフランシスコ・ザビエルだった。イグナチオに傾倒し、聖職者となる決意を固めるフランシスコ。しかし、世界経済の成立を大きく促す大航海時代を迎え、布教もまた経済活動と無縁ではいられず、フランシスコの選んだ道は厳しく険しいものとなる。やがて、信仰に生きるフランシスコ、中国人の海賊、ユダヤ人商人、日本を追われた侍らが、それぞれの思惑を胸に、鹿児島の大地を踏みしめる。

   しかし、フランシスコの命を賭けた偉業は、わが国で結実することはなかった。医術、武器、造船技術など、宣教師たちは、わが国に多くのものをもたらしたにもかかわらず、「信仰だけは無用だった」と著者は結ぶ。本書に、そこはかとなく漂うやるせなさは、現代社会にも通じる倦怠感でもある。本書で描かれる宗教と経済の有り様は、密接に関わりあいながらも決して交わることがなく、それはまた、現代社会にも深く共通するものである。ひとりの宣教師のまなざしを通しながら、著者は、はるか21世紀の世界の姿をも見据えようとしている。(中島正敏)