地球は「球」である
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地球は「球」である。このデモクラシーの理想と現実を読み解くにはこのことを理解していないといけない。何をいわんとするか、地球上に安全な場所はないということ。それぞれが地理的条件で負っている現実はかくも厳しいということ。
マッキンダーによるハートランドの定義はその後のハウスフォッファーやスパイクスマンに継承されることになる。この心臓地帯を制するものが世界島を制し、そして世界を制すといったマッキンダー呪縛は現在でも生きている。
アメリカはマハンで行動し、イギリスはマッキンダーで行動している。本書を読まない限り今、世界で起こっている紛争の何一つ理解することは難しいだろう。理論があまりにも残滓なので地政学と学問にするのは困難だ。私は地予学と呼びたい。地理予言学のことである。
平和を望む地政学者の名著
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「東欧を支配する者はハートランドを制し、
ハートランドを支配する者は世界島を制し、
世界島を支配する者は世界を制する」
英国人マッキンダーは、本書を第1次世界大戦終了間際に執筆している。西欧のデモクラシーの理想と適度な資源管理により世界中の人類に平和が訪れることを願って、世界地理を俯瞰したものである。世界平和の理想を願う気持ちが、どの頁からも溢れ出るように感じられる。
本書中の上記の命題における東欧はベルリンを中心とする旧東ドイツからロシアのモスクワ近辺までを指している。そしてハートランドはマハンの唱えたシーパワーの及ばない地域、ほぼ現在のロシアに等しい。世界島はヨーロッパ・ユーラシア大陸とアフリカ大陸を合わせた大陸を指す。
シーパワー維持には海を往く艦船のために世界島に補給基地が必要である。しかし、シーパワーの及ばないハートランドを東欧の組織者(独裁者)が制して世界島から補給基地を無くした場合、シーパワーを基盤とした西欧のデモクラシーが脅かされることを警告している。
第1次世界大戦ではドイツが負け、東欧の統一は失敗した。しかし、これに続く第2次世界大戦では再びドイツが立ち上がったもののソ連が東欧とハートランドを制して東西冷戦となった。冷戦時の鉄のカーテンがまさにマッキンダーが定義した西欧と東欧の境目に一致することに驚かされる。
この横暴なハートランドに対抗し、世界中の国々でデモクラシーの理想による均衡の取れた発展が出来るかは、世界島以外の島国である南北アメリカ大陸、オーストラリア、日本がシーパワーを発揮し、支那大陸沿岸部から東南アジア、インド、中東、東ヨーロッパ、北欧という半月弧の安定を確保することにかかっている。
出版から1世紀たとうとしているが、世界の地形は変わらないし、責任ある大国による世界の適度な管理が成されないままである。従って、ハートランドを軸とした争いも、デモクラシー的国家の放任主義による都会への人口流入と地方の衰退も、マッキンダーの予想どおり終わる気配が無い。
まさに名著である。
地球戦略の視点
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著者が言っているのは、つまるところ、世界島(=ユーラシア+アフリカ)を
支配する覇権国家の誕生を防止せよということです。
ヨーロッパを統一する覇権国家の成立を阻止するという伝統的なイギリスの
政策の対象が、イギリス及びヨーロッパの勢力拡大とともに地球全体を視野に
入れるものになったものと評することができると思います。
日英同盟が成立した英国側の思惑、東欧諸国が作られた理由等、いろいろと
考えさせられることが多い本書ですが、今日の日本人から見て、本書から
学ぶべきことといえば、その地球戦略の視点だと思います。
世界帝国であった大英帝国のオピニオン・リーダーの一人として、
あたりまえのように地球全体を対象とする戦略が語られています。
人工衛星のなかった時代の著作ですが、視点は宇宙空間にあります。
そこから見た大陸は、見渡す限り広がる大地ではなく、ただの島に
すぎません。
多分、現在の覇権国家であるアメリカも同様の視点から、地球戦略を
考えているものと思われます。日本では、たとえば北朝鮮を論じるのでも、
中国を論じるのでも、日本を中心とした東アジアの地図の範囲で語って
しまいがちです。しかし、同盟国であるアメリカはそんなに狭い範囲で
ものごとを考えることはしていないと思われます。
大国ではない日本にとって、地球戦略の視点は不要とお考えの方も
いらっしゃるかもしれません。
しかし、同盟国アメリカがどう考えるかを抜きに日本の政策を考えることは
できない以上、日本も地球戦略を考えて行かざるをえないと思います。
本書は、地球戦略を考え始めるにあたっての入門書と位置づけられる存在である
ことに、その価値があるといえると思います。
祝復刊。地球儀必須!?
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地政学の古典とされる本の復刊です。何よりも「幻の名著」として語られることが多かった本書が再び日の目を見ることは嬉しい限りです。復刊を機に多くの方々に読まれることを期待したいと思います。
この本を読む際の注意点を一つだけ。この本は、あくまでも大枠の理論を示すものとして考えたほうがいいと思います。個別具体的な「参考書」的詳解や解答をお求めなら、訳者の『地政学入門』(中公新書)の方がいいと思います。
蛇足ですが、本書の理解を深めるには地球儀(山脈や海嶺の凹凸がついたもの)を用意するといいと思いました。指でなぞると分かりやすかったです。知識の総動員を求められる書物を久しぶりに読みました。
【おススメな人】地図を見るのがお好きな方。地政学を学びたい方
名著待望の復刊.
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長らく絶版だった地政学の古典であり名著と言っても過言でないH.J.マッキンダーの『デモクラシーの理想と現実』が復刊されました.
どれだけ,長い間,此の時を待った事か….
マッキンダーの理論は至ってシンプルで解り易く,マッキンダーのハートランド理論は後の地政学のモデルにも影響を与え継承発展され,例えばスパイクマンのリムランズにも其の影響を感じられる.序で乍らですが,先日文庫化された麻生太郎氏の『自由と繁栄の弧』もハートランド理論及びリムランズ理論の影響を感じさせると思っております.
其れ程にも,時代を越えて継承発展される何かがあるマッキンダーの地政学モデルは,物事をダイナミックに捉え大きな枠組みを提供する地政学こそ地理学であると感じさせるでしょうし,古典として乃至研究の為だけでなく単純に読むだけでも面白く,物事を多面的に観る契機ともなるのではないでしょうか.
本篇の「デモクラシーの理想と現実」が少し長過ぎると感じられましたら付録として同時収録されている「地理学からみた歴史の回転軸」だけでも是非読んでみて下さい.