知識の光らかし感。
★★★☆☆
情報量は多いが、特に後半は散発的。
各言語の表記も統一されておらず、例えば“x”が無声軟口蓋摩擦音だったり、/ks/だったりと、読んでいる側に労力を求める点で、問題もある。
こういった本の構成はアリかも知れないが、少なくとも読者の獲得するものよりも、著者の獲得するものの方が多いだろう。
だから、読者としては☆3つ。
研究者としては、☆4つ。
テキストをこなす
★★★★★
故泉井久之助の名著『言語研究とフンボルト』に次のような一文がある。
「言語研究を志すものが、その言語のテキストを「こなす」こともできないで、いたずらに、外面的に、語形と音形のみを非有機的に、散発的にとり扱う。。。言語を取り扱うものは、みずからその言語のテキストにとりかかって、そこから出発する必要がある。」(239頁)
これは言語学研究者、特に比較文法をこころざす者にとって非常に厳しい一文である。
多くの個別言語の文法を身につけ、音韻対応と類推を武器にして祖語を再建する。また、逆に祖語から個別言語への変化を説明する。この「本業」にのみ専念している研究者が、肝心のテキストを「こなせる」とは限らない。
本書は、長い歴史を持つ印欧語比較文法/比較言語学を新しい視点から、しかしテキストを読み込むという古い伝統に立ち返って、本格的に論じた良書である。
豊潤な比較言語学のテキストの世界
★★★★★
近年ややすたれた感のある比較言語学の分野の本。
本書の焦点はあくまでテキストの読解・分析である。つまり、比較言語学の学説史や基本的な概念は必要なだけで、後はひたすらテキスト分分析である。
具体的には、リグ・ヴェーダ、ホメロスに始まり、リトアニア語、ヒッタイト語、トカラ語Aなど比較的ななじみの薄いものまで網羅され、十分それらの豊富なテキストを味わうことができる。
そこから印欧祖語の形や印欧諸語の歴史的発達をたどるのは大変知的興奮を誘ってやまない。
参考文献も充実しており今後の研究の指針となる。