作品中、主人公がソビエトを旅する場面で、挿絵ではなく、ロシアの風物をとった写真がたくさん使われているところが斬新でした(この写真は撮りおろしなのでしょうか? それとも内容に合ったものをどこかから転載したのでしょうか?)。解説にも書いてありますが、松本清張氏がこれにいたく影響を受けたそうです。なるほど、内容も大資本家と労働争議を背景にしている点、清張流の、社会派推理もののはしりのような感じだ、と思って読み進んでいくと、クライマックスでいきなり"読者への挑戦"登場!
私はかねてより、結局推理小説は、清張型とクイーン型の2極の間を行ったり来たりするしかないのではないかと考えていました。木々高太郎氏は、この作品の冒頭に探偵小説芸術論を高々と掲げていますが、その実践としてクイーン型と清張型をミックスするという手法をすでに(清張登場以前に)とっていたんですねえ。解説で、高村薫氏が述べているように、内容にいろいろ欠点はあると思うのですが、やはり日本推理小説史上の一つの記念碑的名作(推理小説史上初の直木賞受賞作ということはもとより)と呼んでもいいのではないでしょうか?
蛇足ながら、ロシア語の知識がないと解けない謎が一部あるのはちょっとアンフェアでは?