本書では、訳者により配慮された「まえがき」を読むことで、EVAについて基礎知識が得られるようデザインされている。続く各章では、従来の会計報告が内包する「歪み」を認識したうえで、EVA導入による問題解決法、戦略と組織のシナジー、価値創造へのハードル、企業変革、将来志向EVAなどの諸論点が整理されている。「EVAへの質問」と題された章は客観的な視点からの問答集となっていて、実際にEVAを導入する企業の参考になろう。ハーマンミラー社をはじめ実例が数多く織り込まれていて、臨場感をもって読み進められる。巻末索引・用語解説もとても使いやすい。
数式に溢れた理論書ではないため誰でも親しめる本に仕上がっているが、収められた内容と筆遣いは、レベルの高い読者ほど好意的に受けとめるかもしれない「懐の深さ」を持っている。全部で300ページ程度のコンパクトなハードカバーだが、いわば、読者の知的欲求とプライドとを、ともに満足させてくれる1冊だ。
「資本に対する機会コストの測定報告」への大いなる転換は、関わる識者をして「風景がまるで違って見える」とさえ感じさせる魅力を秘めたものであろう。EVAの本質は、「企業価値を測定するために生み出されたものではない、従来の会計」の枠組みの中ではとらえることのできない視座の提供にある。常日頃、気づかずに「価値破壊」をしてしまっている経営者に警鐘を与えてくれる本だが、手軽な価格がかえって本書を目立たなくさせ、本書の性格を誤解させねばよいのだが、と心配をしたくなる。(任 彰)