贅沢な1冊、人形好きは必見
★★★★★
ずっと目の端に引っかかっていて、イヤーな仕事をこなした自分へのご褒美にと購入、正解だった。冬目氏の力量のほどは知ってはいたが、コウモリ傘も、中国の花瓶も、香水壜の蓋も、人間の姿をとったらこうだろうという説得力があり、見事。最後に載っている猫のヨミの話も、私は泣かなかったが(泣いた本、というのは公開したくないもので)、泣ける方が多いのでは。
細かく述べればきりがないが、日本人形好には、たまらない1冊。生き人形というものを一度でいいからこの目で見てみたいものだ。
どうやって描いたのだろう・・・
★★★★★
私はコマを追うより行を追っていた方が気が楽な人種で、情報雑誌などに載っている漫画も飛ばしてしまうくらいなので漫画はほとんど読みません。しかし、ある日、立ち寄った「とらのあな」の試し読み(それなら何でそんな所に行く!?)をふととって脳裏に焼きついてしまったのが本書なのです。その時はそのまま手に取らず帰ってしまったのですが、そのあまりの美しさ忘れ難く、ついに購入した次第。
本書は付喪神達と人間達が交わる町にある「文車写真館」という写真館で、被写体の一番大切な思い出の瞬間を一枚の写真に写しとる不思議な生人形イアンとそのご主人様で館主のヨオを中心に、物と人の思い出と今の生を描く短編集になっています。物語としても、一話十ページにも満たない短い挿話を主にしながら、全体としても起承転結のしっかりした読ませる作品になっています。が、本書の最大の魅力は何と言っても絵でしょう。大部分彩色画であり、漫画というより画集と言った方がしっくり来る様な極めて美しい絵の数々です。冬目景氏の評判は元より耳にしてはいましたが、まさかここまでとは。私は不勉強ではっきりしたことは何とも言い難いのですが、下書きの線や細部の崩れ、絵の具の色むらを見るにつけ、著者はどうやらパソコンを使っておられない様に見える。これほどのものをパソコンを使わずに書いたのなら著者の画力には驚嘆せざるを得ません。特に、舞台が大正の東京であることから洋と和の入り混じったキャラクターの服装が実にすばらしい。表紙のイアンの振袖姿は元より、付喪神がそれぞれ自分にあった服を着て擬人化されており、それぞれが個性的で服の柄、帯の結び目にまで手を抜かれることが無いのはすばらしい。ページ数のわりに値が張るのは致し方ないでしょう。普段漫画に興味の無いかたにでもお勧めします。表紙を前に本棚に飾っておくだけでも十分な名品ですから。
冬見景で一番好き
★★★☆☆
生き人形と人間の俗世界からかけ離れた町で暮らす一人の男。人には見えないものが男には見える異質な世界。
しかし人形は知ってしまった。ともに同じ世界で生き続けたい、しかし適わない定めに気付いてしまった人形。そして新しい主を求め別世界に旅立ってゆく。生きる事、人としてこの世に生まれ周囲と関わって行くこととは、長く生きる程、見えなくなってゆくものとは。・・・
羊のうたの心情がこの世界へと繋がっていたことに気付きました。淡々として、とても良いですよ。少し寂しい気持ちとともに。
冬目景の新たな代表作
★★★★★
作者自身、骨董品好きでしられているが、それを見事に物語の中にいかしています。どこか懐かしく、切ないストーリーを彼女の独自のタッチで見事表現。人に帰る場所があるように、モノにも帰るべきところがある。それぞれの思い出を抱く骨董品たちの行き着く場所は・・・。所有者と所有物との不思議な、甘い絆を描いた作品。
「古きよきもの」という諺、その意味を深く感じさせられました。
美麗な冬目カラー漫画
★★★★★
画集<百景>内のフルカラー漫画の再録+モノクロ一話+作者挨拶1pが入っています。
画集を持っている方にはあまり新しさは無いかもしれません。
でも大判サイズで画集より手軽に読みやすいとは思われますが。
最近流行のレトロ・骨董モノ、物の怪モノのジャンルになりますが、
そこでこの作者の実力が光ります。
作品に漂う切ない空気、そして人々の優しさ。
なかなかこれらを表現出来る人はいないのです。
流行に乗っかっただけで実力の伴わない薄っぺらな作家が増えている中で、
明らかにその違いを見せてくれています。
ストーリー性はほとんど無いですね。
さらっとこの一冊でまとまっています。
作者が本の中でいつか続編めいたものを描ければ…と
言っていますけれどあると嬉しいですね。
冬目景を知らない方で骨太の作家が好みの方、短編が好きな方、
そしてこういった絵が好みの方は手にとってみてはどうでしょうか。