茶道を扱ったミステリー 京都の魅力が伝わってきます
★★★★☆
柏木圭一郎氏の作品が好きです。発売されると出来るだけ早く読みたいと思わせる作家の1人で、本作は『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズの第7作にあたります。
今回は殺人事件を絡めながら、知っているようで知られていない茶道の世界をテーマに、持ち前の京都の深い情報を絡めながら展開してありました。茶室の設え、お茶事、お手前、掛け軸にも深い素養が感じられます。茶の湯の世界については、星井裕の言葉を通して耳学問と言っていますが、この描写力は体験に基づくものでしょう。「茶道検定試験」の選考会を絡ませるという工夫も面白い趣向でした。
建仁寺で行われた某赤いガイドブックの発表会や遷都千三百年の取材で奈良へ行ったことなど、タイムリーな話題も時折差し挟まれています。天龍寺の枝垂れ梅などの知られていない観光情報も記してあり、ミステリーですが京都を扱った旅情感が勝る内容でした。
ミステリーですから中身は書けませんので控えますが、動機は弱く、殺人方法も上手くありません。元妻との関係もありますが、犯罪情報の交換もだんだんあり得なくなっています。これは元々の設定が難しい訳ですが。ただ犯人への視線は温かく、作者の人柄が反映されているようです。
構成は巧みで、読ませます。ストーリーを追いながら、京都の旅をしている気分に浸れるでしょう。「WALAKU」(微妙に名前は変えられています)を始め、美味しいお店が登場しますし、様々な楽しみが同時に得られる小説となっています。
解説は歯医者で京都のコーディネーターの柏井壽氏が本作や次回作について語っています。この柏井氏の登場には参りました。そこで語られている「京都検定試験」への思いは同感です。