京都の老舗料亭と料理人が登場するミステリー
★★★★☆
「京都を知りつくす超大型新人の、鮮烈なる書下ろしデビュー作。」という紹介文と、書名にひかれて購入しました。とてもしっかりとした文章で、これが新人作家のデビュー作かと思いながら最後まで読みました。香山二三郎氏の解説の中で、作者の柏木圭一郎氏の本名が書かれていました。柏井壽さんとのこと。
柏井壽さんは、京都市北区で歯科医院を開業されている生粋の京都人です。すでに京都に関する著作が何冊もあり、蘊蓄と知識の詰まった情報量あふれるエッセイを数多く編み出しています。もともと文章が巧みで、随筆でもワクワクするような気分に包まれていたわけですから、小説でも同様です。
京料理についての著作があるくらいですから、老舗料亭や優れた料理人が登場しその腕前を披露する場面も体験を元に執筆されているわけで、内容や記述の確かさも抜群です。
東山如意ヶ岳の大文字山が冒頭のシーンで登場します。全国的に有名な山ですし、京都を俯瞰できる絶好のロケーションです。その意味でも書名とつかみは上手く成功していると思いました。
とはいえ、推理小説としての味わいは少ないですね。アリバイの構築とアリバイ崩しも沢山の小説を読んできた者にとっては物足りませんし、殺人を犯す動機も弱いと思います。そのあたりはネタばれになりますから書けません。
ミステリーの側面よりも「新・旅情ミステリー」シリーズとしての意味合いの方が大切でしょうし、京都好きには満足できる内容です。京都の老舗料亭、名品、そして穴場とも言えるお店が実名を少し変えて登場しますので、モデルになった店を想像しながら読み進めるのもまた一興です。