それの理由を二、三挙げるなら、まずはその内容の薄さです。この様なタイプのシリーズでは、その傾向は避けられないものでしょうが、本書は先史時代から、二十世紀までを扱っているという事情からか、それがよりひどい。また、西域探険史にも特別に章を割り当てているのだから、より一層紙幅は圧迫されます。私には蛇足に見えて仕方ない先史時代の記述を合わせると100ページにもなり、最後にまとめて詰め込んだかのような諸ハン国の説明を見るにつけ、この100ページには恨めしい思いです。
もうひとつ許せないのが、執筆分担が明白でないことです。これでは内容に本当に信が置けません。大体執筆者はその内容に責任を持つべきであろう事からいっても、どんなに錯綜した分担であったとしてもそれを明記するのが当たり前と考えている私としては、どうもしっくりこないものを感じざるを得ませんでした。
しかし、手ごろな中央アジア史が少ない中で、本書は貴重であるとは言えると思います。お値段も手ごろですし、イスラム以前から続く、西域としてみたこの地域、という視点も良いものだと思います。複雑な言語、民族、宗教、国家、社会が入り混じるこの世界は、他の地域に無い不思議な魅力があります。ひとつの民族、ひとつの国家、ひとつの思想と、なんでもかんでも一点に集めようという近代の流れ。その中で生まれた歴史学によって作られた歴史に食傷気味になったとき、てんでばらばらでありながらも、そこそこうまくやっていた西域史は新鮮です。今は砂漠の中だからこそ、現代のしがらみから自由であり、異種の思考で回る今とは別の世界をそのまま見せてくれるのでしょうか。とにかく問題は多々ありますが、西域という時代に触れる手軽な入門書として価値ある一冊ではあります。