パノラマ島をつくる
★★★★☆
「パノラマ島奇談」「白昼夢」「鬼」「火縄銃」「接吻」の5編が収められている。
「パノラマ島奇談」はやはり傑作である。圧倒的なグロテスクと奇想。幸せになれそうに見えて、やはり破滅してしまうという運命。ラストの衝撃的な死。乱歩の真骨頂ともいうべき一編だ。
「白昼夢」と「接吻」は小品。
「鬼」は、翻案トリックが使われているが、女性の執念を描いており、怖い。
「火縄銃」も翻案トリック。
絢爛!
★★★★★
パノラマ島奇談は、奇怪な計画を実行する様子が描かれている部分はおどろおどろしいが、
その後、造り上げられたパノラマ島の全貌が、詳細に描かれている部分には、心を奪われる。
それは、絢爛であって、この世のものとは思いにくい。
夢の中を彷徨っている様な甘美な感覚と、主人公の邪悪な思惑が、渾然一体で、不思議な印象だ。
この絢爛華麗な世界を創造する主人公の執念に、ある種の狂気性を感じるが、著者の大きな到達点でもある。
近年の作家の推理作品は、社会構造そのものに、深くメスを入れたりして、作品に厚みを加えているが、
著者の、この傾向の作品群は、全く浮き世離れしていて、甘美そのものであって、それでも推理作品なのだ。
現実を忘れて、どっぷりと浸る事が出来る。
それは、幾年月を経ても、決して色褪せる事は無い。
文庫ではこれが一番
★★★★★
乱歩作品は今日では多数の文庫(光文社、創元、角川、筑摩、新潮)で読めるようになりました。集成としては光文社、当時の挿絵入りでは創元が優れていますが、光文社版は分厚くて寝転がって読むにもやや嵩張りますし、創元版は挿絵でイメージが定まってしまうという不満があります。春陽堂版は1969年に出た初版をベースにしており、年代問わず面白いところをすっと出してくれています。あの当時は春陽堂さんの文庫がなければ講談社の箱入り全集しかございませんでした。何となく乱歩の時代にあったようなやや黄ばんだ紙の上の文字を読んでおりますとだんだんと乱歩世界に入っていくことができるように思います。他の文庫もすべて持っておりますが、この春陽堂さんのものが一番乱歩を読むのに相応しいかと思うのであります。私はこの文庫で「陰獣」「パノラマ島奇談」を読んで以来ずっと乱歩の愛読者となってしまいました。
少し推理と幻想文学
★★★☆☆
乱歩の代表作の中に含まれるほど有名な作品として本作品は有名ですが、この作品の醍醐味はパノラマ島で繰り広げられる幻想世界でしょう。私は乱歩の作品で犯人の異常心理やトリックの使われない作品はあまり好きではありませんが、この作品はそれなりに読めました。乱歩のいいところは幻想世界を描くに当たってけして、非科学的な事に逃げないところだと思います。幻想世界もそれなりに科学的裏づけに乗っ取って描かれていますし、主人公がパノラマ島の幻想に浸りきるところはカミューのカリギュラを髣髴としてなんとも暴君というイメージがしました。文学的な見方としてもかなり評価の高い作品だと思います。ちなみにこの作品は乱歩のエログロの世界はあまり描かれていません。
江戸川乱歩世界に浸るのに、ぴったり
★★★★★
事件の謎解きよりもパノラマ島の不気味な描写が印象的。推理小説というよりも幻想文学である。
読み終えたときに、吐き気や悪寒がする『白昼夢』。
犯人の情念が凄まじい『鬼』。
印象の薄い『火縄銃』。
ほのぼのした、しかしどこかブラック風味の『接吻』。
シリーズ全体の江戸川乱歩世界を一番表現していると思うカバーデザインは、一見の価値有り。