ブガッティよ疾走せよ! 義正の青春を乗せて
★★★★☆
’95年、「第48回日本推理作家協会賞」長編部門と「日本冒険小説協会特別賞」受賞作。
また同年の「このミステリーがすごい!」国内編で、第1位の真保裕一の『ホワイトアウト』に惜しくも僅差で第2位となっている。執筆4年、原稿用紙2500枚にも及ぶ大巨編である。
1936年(昭和11年)、ナチスが台頭し、きな臭い空気が漂っていたヨーロッパ。帝国陸軍フランス駐在武官千代延(ちよのべ)子爵の次男、義正は倦怠と憂鬱の日々を送っていた。しかし懇意にしているフランスの老男爵に連れられて見たカー・レースにすっかり虜になってしまい、自らもカー・レーサーになるべく家を飛び出し修行に励む。
物語は、義正がレーサーとして1938年の南仏ポーで開催された国際フォーミュラ・レースに出場するまでの、第二次大戦直前のソ連・ドイツ・フランスのスパイ事件に巻き込まれ、波瀾に富んだ足掛け3年を舞台にしたストーリーである。
パリを舞台に暗躍するソ連のスパイ、昔かたぎの盗賊、財を蕩尽する貴族、スピードに命を賭けるレーサー、義正を愛するふたりの女性など、彼をめぐる人々の動きが重層的に幾重にも重なり錯綜し、クライマックスのレースに向かって収斂されてゆく。
本書は、動乱の時代をヨーロッパの陰湿なスパイ合戦を通して活写した力作であると共に、列強各国の思惑の中に翻弄されながらも、何があろうとレースでの勝利を目指す義正の、爽やかささえ感じられる、ノワール、ハードボイルド、ロマンスの要素も併せ持った、読み応え満点の一大青春冒険活劇である。