カーネギー・ホール・ライヴ/フジ子・ヘミング2001
価格: ¥3,045
2001年6月7日、フジ子・ヘミングがニューヨークのカーネギー・ホールで行なったアメリカ・デビュー・リサイタルの記録である。とはいっても、ウィーン・アルティス弦楽四重奏団、コントラバスのヨーゼフ・ニーダハンマーと共演した1、2曲目、弦楽四重奏団のみの演奏による12曲目は後日同ホールでセッションを組んで録音したもの。本当のライヴ録音が聴けるのは、それらをのぞく10曲だ。フジ子・ヘミングの武器は、超絶技巧でもなければ磨きぬかれた音色でもない。独特の間の取り方、しなの作り方の妙が、彼女の演奏をほかのピアニストにはないものにしている。このアルバムでそうした特長がもっともはっきり現れているのは、後半に置かれたリストの作品だ。たとえば「愛の夢」での、切れ切れになりそうでならない微妙なフレーズのつなぎ方。この「愛」は、今現在の燃えるような愛ではないのだろう。遠い昔の愛の思い出が、ゆっくりと走馬灯のように現れては消えるといった風情だ。また、十八番の「ラ・カンパネラ」では、もともと遅いテンポを、ここぞというところでまた一段と落としてリスナーの虚を突く。彼女の決め球はスローカーブであって、剛速球や高速スライダーではないのだ。ウィーン・アルティス弦楽四重奏団は、特に彼らだけによるメンデルスゾーンの作品で、実に情緒纏綿(てんめん)とメロディーをうたわせている。知より情の勝った演奏で、フジ子・ヘミングの独奏と並べて聴くのにぴったりだ。(松本泰樹)