没後100年に相応しい名著
★★★★★
700頁を超える大作で、幕末から大久保利通を引き継いで、明治憲法の
制定、初代内閣総理大臣としての議会開催と近代日本を築いた伊藤の
一代史である。
様々なエピソードが、丁寧に説明されていて、本書を読んで知った事実
も多かった。改めて伊藤博文の再評価に繋がる内容を多く含んでいる。
山県有朋との関係も、丹念に追ってあって興味深かった。同じ著者の
『山県有朋―愚直な権力者の生涯』を読むと、山県に対する理解も深まり
本書の味わいも増すと思う。
レビューでとても全貌を紹介できる本ではないので、手にとって読み進めて
もらうのが一番であろう。
すごい本
★★★★★
分厚いだけでなく中身が濃いので、読むのにひと月以上かかりました。最後の「伊藤博文と日本・東アジアーおわりに」の章に本書の要約が実によくまとまっているので、ここを書店で確認してから購入するのもいいでしょう。
本書の前に、伊藤博文の伝記を三好徹、羽生道英、豊田穰と三種類読みました。伊藤博文の生涯にはいくつもドラマチックなエピソードがあります。士族でない身分が来原良蔵の付き人に取り立てられたことから運が開け、高杉晋作の知遇を得、攘夷のためイギリス公使館焼き討ち、塙次郎暗殺、国禁を犯してイギリス留学、処刑覚悟の帰国、明治政府の要職についてからも岩倉使節団、憲法調査を含む三度の欧米渡航、日清、日露の戦争指導、等々。しかし、作家が書いた伝記ではエキサイティングに書かれるエピソードが、本書では拍子抜けするぐらいあっさり、ときとしてほんの一文で記述されています。本書は大学の先生ならではの、未公開のものを含む膨大な一次資料を読み込んで、伊藤博文の細かい心理の動きをも再現しようという、真実を追求した書です。明治の政治家たちは実によく手紙を書き、特に伊藤博文は筆まめで、またそれらがよく残っているようです。従って、必然的に国内政局の動きについて最も詳しいです。 明治維新後の伊藤博文は、最期の安重根による暗殺まで、常に当代一の権力者として日の当たる道を歩いていたように思えますが、本書は第三次伊藤内閣以降を斜陽編とし、いかに伊藤博文の影響力が低下していったかも、丁寧に書いています。 作家には書けないすごい本だと思います。
質が全然違いますが、単に面白さでいえば、一番古い豊田穰の作品が一番でした。これで簡単に手に入る伊藤博文の伝記は全部読んだと思ったら、新しく瀧井一博のが出ましたね。これも読んでみます。
伊藤博文の苦悩。偉大な政治家。
★★★★★
本書は、伊藤博文の全生涯についてまとめ上げられた濃密な本です。
伊藤の生い立ちから、幕末での活動、大久保への接近と立身出世、そして、権力の絶頂。
そして、理想への追求へと、詳細に一次資料から練り上げられた本書は圧巻。
あらためて、伊藤博文という大政治家の凄みがわかります。
また、妻への思いやりや無くなった幕末の戦友への責任感がすごくよくわかります。
読んでいて、グッとくるものがありました。
文章も読みやすく、当時の時代状況に対する説明も詳細なので、初学者でもわかりやすい構成となっています。
特に、伊藤の憲法政治への意志は並々ならぬものを感じさせられます。
また、伊藤の明治憲法制定について、伊藤自身が日本史の勉強を長年行うなど、伊藤の勉強方法もわかり、そのあたりもおもしろいです。
偉大な政治家の考え方、生き方に触れるには絶好の書と言えそうです。
明治時代の政治史の専門家である著者だからこそできる労作と言えそうです。
この本を読んで、著者の他の作品を読みたくなるほどでした。
伊藤博文初の一次史料にもとづく本格評伝
★★★★☆
伊藤博文が日本近代以上屈指の重要人物でるのはすでに論じつくされているが、意外に評伝の類は少ない。一次史料が膨大であるのと、朝鮮半島関係で暗殺された点、女性関係などがその理由に挙げられている。
しかし本書はあくまで膨大な一次史料に真っ向からあたり、またそこから一般に言われるような伊藤象を覆し、「剛凌強直」な人柄であることを論証した点に重大な意義を有する。労作であると評価してよい。ただし、伊藤博文を称揚するあまり、やや学術的著作としては気になる表現があるのも気にかかる(P36の「間違いだらけの英語辞書」、など)。
ともあれ、風雲急を告げる幕末から、激動の明治維新、近代国家としてのかじ取り等、近代日本史の縮図といってもよい波乱万丈の生涯が味わえる大部の一冊となっている。
伊藤博文の伝記の決定版
★★★★★
この著書は画期的なものです。この本の最大の強みは、同時代の伊藤と接触のあった明治の元勲や政府高官、伊藤の身近にいた人々との間に交わされた書簡などの第一次資料に基づいて伊藤の実像を明らかにしていることです。
自らは元勲でありながら、薩長の藩閥政府による専制支配を打破して我が国を名実ともに近代的な立憲君主国家にしようとした伊藤の苦闘の生涯がみごとに活写されています。部分的にやや伊藤に惚れ込み過ぎではないかと思われる叙述もないわけではありませんが、そのような伊藤に対する著者の敬愛の念がこれだけの著書を書かせたものともいえます。
ともあれ、以外に本格的な評伝や伝記の少なかった伊藤の実像を浮き彫りにする見事な著書です。