読み方によっては単なるファンタジー小説。ルネサンス期から360年を生きて、その間に男性から女性に変わってしまった人物の「伝記」なのだから。でも実際はそんなに単純なものではない。この作品が面白いのは、主人公の長い人生の物語の中から、英国社会の変遷(上流社会の裏側や女と男のありかたなど)や英国文学史など、多くのことを読みとることができるからだ。とにかく情報量が豊富で飽きさせない。奥が深いのだ。さすがウルフ!なんて知的な遊び!ついでながら「性」もテーマの一つなので、現代人が読めばジェンダーについても考えさせられることになるだろう。オビにある「両性具有」には惑わされないように。
書いていて楽しかったのか、ウルフはたびたびはめを外す。本人は夢中だったかも知れないが、読者としてはあまりの悪ノリに白けてしまうところがある。目くじらたてるほどのことでもないけれど。