『もののけ姫』に接した方は・・・
★★★★★
読み始めると、風呂の中でも読み、二日三日で読み通した。(次に記すことは、読んでからかなりたち、頭の中が整理されてから思い着いたことです。)この作品では「壊す人」という神さまと言える存在が出てくる。物語の中での役割は、『指輪物語』の、動く森(あるいは意志をもち動く木々)、『もののけ姫』のシシ神様とも重なる。どちらかの作品に接した方は、これらの神(あるいは精霊)のイメージを手がかりに『同時代ゲーム』の世界に入っていく、という道筋がありうるかもしれない。
いったん物語の世界に入ったなら、きっとはまるでしょう。
巨人の星
★★★☆☆
実に長大な、村=国家=小宇宙の神話と歴史を綴った壮大な「御伽話」であるが、第一稿はこの2.5倍の分量があったそうである。それに推敲に次ぐ推敲を重ねて完成したのが現在の分量になったそうであるが、特に「第一の手紙」の、メキシコ在住の部分が大幅に削られて取っ付きづらい作品になっている。そこを読みこなし得るか、が作品世界に没頭できるか否か、の分かれ目である。日本にありながら二重戸籍の制度により独立を維持せんとした村=国家=小宇宙が、やがて日本に対して戦争を仕掛ける、という突拍子もない寓話とアイロニーに満ちた「大人の童話」とも言うべき大江版ファンタジーの世界は、暗い風刺とパロディに満ちていて、大江独自の現代文明批判が澱みなく続く、様は痛快である。特に「巨人の星」のパロディは秀逸であり、梶原一騎の劇画は大仰なだけで何のリアリティもない作品であったが、大江版・巨人の星はそれ以上に大仰でありながら妙なリアリティがあって絵空事に思えないところ、が大江的リアルさの醍醐味である。発表当時大層物議を醸した作品であるが、案外そんな風に読んだ方が理解が深まるかもしれない:大江的パロディに溢れた「娯楽小説」だ、とね。
なお、タイトルの「同時代ゲーム」とは、サザンオールスターズの「勝手にシンドバッド」同様、「深い意味はない」と思って読むのが肝要である。
何故大江氏が小説を創り続けるのか
★★★★★
たしかに読みづらい作品であるかもしれない。
作品の内包する世界が重層的で、しかもそこへの入り方
がわからずに戸惑ってしまう、それが読みづらさとなって
いるように思う。
しかし、自分の表現したいことはこの形でしか描き得ない
という確信の下に筆を進めていることは、最後まで読めば
必ず感じることができると思う。
「同時代ゲーム」という題名に込められた世界観。
広げた風呂敷をラストで見事にたたむ作品構成。
そして、書き手である「少年」の叫び。
何故大江氏が小説を創り続けるのか、その深層に触れる
思いがする。
何ヶ月かかっても、ぜひ最後まで読むべき作品だと思う。
時間があれば
★★★☆☆
章を追うごとに少しずつ神話と歴史が見えてくるのは面白くなってくるのだが、いかんせん長い。その上、一人称で書かれた妹に向けての手紙という文体なので、括弧でかこまれたセリフってものがゼロに等しいくらいで、余計に長く感じた。時間がなければ読まないほうがいいかもしれない。