これがベストセラーだった時代があった
★★★★★
過剰な修飾、あふれ出る語彙、圧倒的な小説である。現在の流行作家にも、饒舌体めいた文体を使う人はいる。だが、本書は描かれたがっている内実が、次から次へと言葉を求めているかのようだ。言葉の奔流が、無駄ではなくぜいたくと感じられる。
戦後からの脱却、地域社会の自立、地域文化の再発見と再評価、障害児という個人的な困難、学生運動のベクトルの矛先 … 時代と個人の問題が渾然一体となり、読者を巻き込んでゆく。
大江文学の最高到達点の一つだと、今回再読して確認した。
ただ、文学と世界の関わり方が、現在はこの地点から遠く変容しているのだ。
わが青春のメモリアル
★★★★★
今から四半世紀以上前、講談社文庫(文芸文庫ではない)で読んだ。粟津潔の真っ赤なカバー画の本である。初めて読む大江健三郎の小説だった。冬の風の強いある日、西新宿の高層ビルの谷間にある喫茶店で黙々と読みふけったことを今もよく覚えている。「夜明けまえの暗闇に眼ざめながら、…」という冒頭の一文を読んだだけで、たまげてしまった。いまだかつて読んだことのない難解な文体だったからだ。それ以後、小説を読むと、その文体をとても意識するようになった。この小説でもっとも気に入っているのが第2章「一族再会」だ。空港ホテルの一室で、アメリカから帰国する鷹四を家族や友人が酒を飲みながら待つ場面である。そこで、とりわけ印象的なのが菜採子で、その言動には確かな実在感があり、女性としての魅力を大いに感じさせたものだった。おそらくゆかり夫人がモデルだろう。また、フランスの作家クロード・シモンが来日し、大江と対談した時、第3章「森の力」において、蜜三郎が森の中で湧き水を飲む場面で、透明な水の下に灰色や朱色の石が見えるという描写に感銘したと言っていた。この小説には、他にも多くの魅力があり、それをすべてここに書くわけにはいかないが、とにかく日本の土着の力をまざまざと実感させる傑作であり、ラテン・アメリカの諸作にも全くひけをとらないと断言できる。「すくなくともそこで草の家をたてることは容易だ。」という最後の文を読み終わった時の感動といったら…筆舌に尽くしがたい。
傑作
★★★★★
17歳ごろに読んで、小説を書きたいという「淡い欲望」が吹き飛ばされました。
とにかく凄い!
★★★★★
何十年も前にこんな凄い小説が書かれていたことに驚きですね。全編にわたって張りつめた緊張感。大江健三郎のなかではこれと『叫び声』が断トツに好き。
戦後文学の一つの到達点
★★★★★
読む人間を選ぶ作品である.
もちろん漢字が読めれば読破は誰でも出来る.
しかしこの作品を理解するのはなかなか困難である.
まぁ,まず読んでみてください.
内容についてのレビューは皆様が徹底的に書いているので
差し控えさせていただくとして,
(少なくとも戦後の)日本文学で世界に問う事ができる
数少ない作品の一つである事は確かです.
ただ,書かれた時代のせいか,非黄色人種コンプレックスというか,
その点が読んでて引っかかった感じはしました.