ケイトは、いよいよ余命いくばくもなくなったミリーの遺産の恩恵に浴するため、恋人デンシャーになんとミリーと結婚することを提案し、ミリーには、自分はデンシャーを愛していないと告げる。それを真に受けたミリーは、彼への想いを一層募らせる。ヴェニスに残ったデンシャーは、ミリーとの面会を重ねるうち、特別な感情を抱きはじめる…。
どこまでも実益を求める迫力に満ちながら、同時に嫉妬にも苦しみ始めるケイト。彼女の矛盾に満ちた人物像は、人間の複雑さの造形がことごとくみごとな本作にあっても、その最たる成功例といえる。ケイトとデンシャーの関係の行方は、最後の1文まで予断を許さず、意外とも必然ともいえる結末が待っている。ジェイムズが執拗なまでに描写する人間心理の底知れなさが、読後しばらく余韻となって残る。(岡田工猿)