『死国』『狗神』に続き、田舎の隠微な風習を下敷きに描く、坂東真砂子のホラー小説。
地域には、未だ一種の閉塞感を持った地域はあるのだろうか。
そういう地域に、太古からの言い伝えがあり、それを頑なに守っている人たちがいても不思議ではない。
本来、日本人は身近な山や森を敬い、畏れ、それらの怒りを収める目的で建立された神社仏閣は多いのだから。
そういったエッセンスを生かして物語は、工業化の進んだ現代にあっては、逆に刺激的なものなのではないだろうか。
ただ、著者の作品は、単なる伝記・伝承の類を恐怖譚で終わらせるだけではない。それにまつわる人々の描写が繊細なのである。
結婚を直前に控え心揺れる主人公、半身不随を悲観する少女、それから、先祖より受け継いできた神社の跡継ぎに苦悩する宮司。
みな、心に不安を抱えた人たちである。
そこにつけこみ巣食う邪心こそが、本当の邪神であり蛇神の元凶なのかもしれない。