人生、白紙に戻ってやり直したいと思っても、それまでに蒔いてしまった種は知らないところで大きく、意外な方向に育ってしまう。大人になればなるほど、そのしがらみからは逃れられない。そんなことを強く感じさせる小説だった。
最後に見せる久乃の女としてのしたたかさに、同じ女性として複雑なものを感じた。
藤田宜永の恋愛小説はいずれも好きだけど、この作品は読み進むほど胸に迫って印象深い。彼って男性なのに、どうしてここまでリアルに女ごころが描けるのだろう?
京都を舞台に蹄鉄師の男と祇園のお茶屋で生まれ育ちながら、染物屋に勤める女との「職人同士」の大人の恋。それも単に感情に溺れることなく、互いに生業を理解・尊重し助け合いながら障害を乗り越え、生きていこうとする様を読んだ後は、「理想の恋愛ストーリー」に憧れた若かりし頃の思いを再燃させてくれるものがあります。
随所に挿入される京都の四季も、きっちり「落として」くれるラストもお見事。星4つにしたのは、もっと長編にしてもっと楽しみたかったからです。
女性のみならず、男性(特に中年層)にぜひ読んでいただきたい一!冊。