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愛の領分 (文春文庫)

価格: ¥679
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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汗まみれ、泥まみれ、愛まみれ ★★★★☆
直木賞受賞の恋愛小説。美と醜があっていいよね。えぐさもドキドキ。おぞましさにもドキドキ。静寂すらドキドキ。冒頭からものもの
しくて一気に読ませる。そのストーリー展開の妙がきらめく。でもやっぱ一番いいのはそこで踊る登場人物だよ。そりゃそうだ。
でも、このたてつけを度外視したような感覚が何より欲しい。第三者には理解できないのが愛。よって、好みこそあれこの感覚に優れた
裏付けがなきゃ面白くもなんともない。
それにしてもこの人が描く女性は真に迫ってる。極論で言えば母性の描き方がだ。それが描けたとき対照的に男の生きざまも出てくる。
男はさ母性という絶対的なものを持ってないから、自分で創造するしかないの。でもそれは付加の総計か破壊の総計になりがちだ。
シビアだから矛盾が欲しい。それが母性。淳蔵みたいに知性へ逃げこんでも孤独だよ。昌平みたいにスポーツ感覚でやっても虚しいさ。
もっと素直になればいいのに。でも虚勢張りたがる。だからバランスが必要。母性。でもその母性もバランスを欠くと大変。美保子
みたいになっちゃうよ。いやいるんだよ。それが強烈すぎるが故に、往々に頼りない男に惹かれて、晩年に苦労しちゃうのも。
で、結局ウダウダ書いてたら何が言いたいかさっぱりわからんくなったけど、結論として言えることは愛の領分なんて四次方程式の答えは
ないわな。が、結局それは男も女も謙虚に求めるべきなんだ。使われたり、反対に使ったりするもんじゃないことは確かなんだから。
愛の領分を分け合える二人だけが幸せなのか ★★★★☆
愛の領分 藤田宜永 文春文庫 2004

単行本2001文藝春秋
藤田さんの直木賞受賞作品
男と男の出会い、別れ、そして当然そこにある男と女の出会いと別れ。
それは運命なのかそれとも偶然なのか。別れは必然なのか、そして男と女のどちらかに責任があるのか。
仕立屋の淳蔵を取り巻く世界、そこには運命にも似た人生が用意されていた。
東京白金と信州との間で繰り広げられる男と女の少し悲しい物語。
果たして、愛に領分があるのだろうか。愛の領分を分け合える二人だけが幸せになれるのだろうか?
文庫の後書きの後ろに、自伝エッセイ、母親の顔として、藤田さんがご自身をアダルトチルドレンだと告白し、お母様への想いを書き綴っているのが興味深い。また小池真理子さんのとの出会いにも触れている。
外ではトキメキ、内では情愛 ★★★★☆
妻の小池真理子が「恋」で直木賞を取った後、旦那の藤田宜永がこの本で直木賞を取った。

「恋」よりこちらの方が、いろいろなタイプの男と女の心の陰影が深く描かれていて、心理劇を見るように読み進んだ。文庫版では本編終了後に「自伝エッセイ−受賞者が語る直木賞受賞までの軌跡 母親の顔」が所収されており、これを読むと「パーフェクトでなければ褒めてもらえない」母親へのトラウマが藤田氏の人格形成に陰を落とし、実に様々な経験と女性遍歴を繰り返したことが了解される。そんな藤田氏自身の心象風景がこの小説の登場人物全て、それは男も女も、に投影されている。だから深い。

NHK TV「今夜は恋人気分」でこの直木賞夫婦が出演しており、「外ではトキメキ、内では情愛」というタイトルだった。番組を見ていると小池の方がワルで藤田の方が純情なように見えた。「愛の領分」を読んで感じたのは、藤田はいわゆる「ワル」と後ろ指さされるようなことは若い時代に殆ど経験しているが、そういうワルをおもしろ半分とかカッコつけの為にやっていない。母親へのトラウマから脱するための必死な営みであり、女性遍歴を重ねながらも女性を信用できない(母親へのトラウマから)ジレンマに純粋に埋没したのだろうことだ。そういう意味での純情さが感じられる。

この「愛の領分」に主人公の淳蔵がわが子に言う言葉に、死んだお母さん(自分の妻)には情愛を感じていた、と。ああ、これがTVの「外ではトキメキ、内では情愛」ということなんだなと合点した。ちゃんと数えていないがこの本には「情愛」が2度出てくる。小池の「恋」には一度も出てこなかったと思うが。
新鮮な感じ ★★★★★
表紙がとても重い感じなので、買ったまま少し眠らせて置いたのだが、一度読み始めたらはまってしまった。作者の登場人物に対する間合いの取り方や、時間の流し方などとても新鮮でいい。読んでる間とてもいい時間をすごせると思う。
4人の大人の過去と現在の恋物語 ★★★★☆
一人息子を育てながら静かに仕立て屋を営む男、友人、その妻でかつての不倫相手、そして友人の元愛人の若い絵描きの女。この4人の愛憎を細かに綴った直木賞受賞作。
紳士服の仕立てという孤独な仕事が丁寧に描かれているのにも注目。
かつての恋愛相手が病気になり、外見のみならず、心もいびつになっているのが残酷で、作者の容赦ない筆致が「痛い」ほど。
「大人の恋の物語」であると同時に、「老い」に差し掛かるときの冷静と情熱の狭間で揺れる人たちの描写が見事。