労作だが西日本と沖縄に限られている
★★★★☆
私自身の先祖の中にも文祿慶長の役で朝鮮からさらわれた女性・小麦様がいるということになっているため(日本軍が朝鮮から女性をさらったという話そのものには信憑性があるが、私が本当にその子孫なのかについては疑いが残る)ために興味を持った。この本は文祿慶長の役で日本へ強制連行された人々とその後や子孫に焦点を当てていて、朝鮮での戦闘などはあまり重点を置いていない。赤穂浪士の一員・武林唯七の祖父が文祿慶長の役の捕虜で「武林 先祖は虎も 住んだ国」という川柳も詠まれたことを私は本書で初めて知った。また、乃木希典氏の先祖にも朝鮮人披虜人がいたことを示すなど、明治憲法下なら確実に検閲対象になったであろう事実にも言及している。日本軍は住人虐殺、捕虜の強制連行、文化財の略奪もしていたことから「焼きもの戦争」といった表現がそれらを隠蔽しかねない一面的なものであることを本書は指摘している。また、朝鮮からの披虜人が伝えた文化が焼きもの以外にも食文化や熊本城の瓦などへ影響していることを調べた労力は敬服に値する。また、取材を受けた人の中には本書でイニシャルで書かざるを得ない人がいたり、「私の先祖を暴かないでくれ」と言った人がいたことには少々残念な思いがした。
なお、本書で披虜人の痕跡を調べたのはほぼ西日本と沖縄で、東日本についてはほとんど触れていない。もっとも、東日本の武将で文祿慶長の役に参戦した者はそう多くないので、西日本や沖縄と比べると痕跡はあまり残っていないと思われる。
なお、著者:尹達世氏は民団系の在日韓国人二世なので北朝鮮政府の蛮行に迎合する気が無いことは付け加えておきたい。