生活人オーウェル
★★★★★
第四巻は「ライオンと一角獣」と題し、イギリス民衆文化論をテーマにしてまとめている。
冒頭の「ライオンと一角獣ー社会主義とイギリス精神」はサブタイトルの示すとおりイギリスに社会主義の政治を適用できるのかを、歴史的ないわゆる「イギリス精神」を点検することで考えた文章で、ページ数も百ページを超えるものだ。その議論には少しうなづけないところもあるけれど、戦時中、ドイツに攻撃を受けていた最中での文章には外部への切迫感と内部への危機感が読み取れるし、その意味でとても誠実な文章だと思う。ちなみに、ライオンと一角獣はイギリスの王家の紋章に使われているのだという。
その冒頭の文章を除けば、他の巻での文章よりもよっぽどくつろいだテーマと内容のものが続く。漫画絵葉書、少年週刊誌、ユーモア文学、ナンセンス詩、グッド・バッド・ブック、スポーツ、料理、紅茶、パブ、クリスマス、ひきがえる・・・、政治や文学を語るときの論理的な思考よりも、イギリスに現に生きている人への共感と優しさに軸足を置いた文が多く、こんなオーウェルもとてもいい。
ただ、そんな論理思考と人間的暖かさという性質はは分離したものではなく、深いところでで強くつながっている印象を受けた。そしてその二つが強くつながっているのは、自分の中で「これだけは譲れない」とする価値がはっきりしていたからだと思う。その価値をはっきりとさせたのがビルマ・パリ・ロンドン・ウィガン・スペインなど各地での経験、あるいは全体主義政治の現実とイギリス国内の状況だったのかと考えるのは図式的かもしれないが、何よりも内側にいながら外側で感じ、考え、思い、外側にいて内側で感じ、考え、思うというような人間としてのダイナミズムにこそ尊敬を覚える。外国の作家でありながら、ナショナリズム批判、官僚統治批判、メディア批判など、今の日本の状況にもあてはまる鋭い批評を投げかけている部分もあり、多くの人に参考になると思う。
この巻は少し軟らかめで楽しい一冊。