『翼ある闇』以前のメルカトル鮎
★★★★☆
◆「化粧した男の冒険」
刺殺された男の顔に、なぜ死化粧が施されていたのか?
いまや常套句として、一般にも通じるチェスタトンのとある逆説がモチーフ。
もっとも、そうした論理の冴えもさることながら、翌日に予定している観劇に間に合わす
ため、超法規的な「捜査」を展開するメルカトルの“銘”探偵ぶりこそ読みどころでしょう。
◆「彷徨える美袋」
殺人の容疑者にされた美袋。
ノックスの生原稿を譲ることを条件に、自分の容疑を
晴らしてもらうよう、メルカトルに頼むのだが……。
現場は、山のなかのペンション。
一晩中、窓が開け放たれ、灯がついたままの部屋は朝、どういった状態であるはずか――。
このことを糸口に、メルカトルは美袋の容疑を晴らします。
しかし、事件解決後、ある意味犯行以上に「鬼畜」な真相が明かされるのです。
◆「小人閑居為不善」
暇を持て余したメルカトルは、いかにも事件に
巻き込まれそうな、金持ちの老人にDMを送った。
後日、彼の思惑通り、一人の老人が事務所を訪ねてきたのだが……。
タイトルの出典は『大学』。
〈ホームズ〉ものを彷彿とさせる事件とその解明が描かれます。
しかし、ラストでは、メルカトルがDMを送った真の意図と、タイトルに
託されたブラックな意味が明かされ、ひとひねりが加えられています。
◆「水難」
土砂崩れで百人以上の女子中学生が生き埋めで亡くなった事故が、かつてあった。
その際、独りだけ死体が発見されなかった少女の幽霊にまつわる話。
事件に際し、都筑道夫『七十五羽の烏』などに登場する
心霊探偵・物部太郎であると偽称するメルカトル。
本家と対照的に、実際に超自然的現象が起こるのが、
本作の本作たるゆえんでしょうか。
◆「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」
◆「シベリア急行西へ」