ベベウ・ジルベルトによるこのアルバムのリリースには、4年の歳月が費やされている。この事実からも、前作『Tanto Tempo』の売れ行きと反響のすさまじさが知れるというものだ。本作は3人のプロデューサー、3か所のロケーションを経て完成したが、ベベウ・ジルベルトは前作で故スバが確立した路線から大きく離れてはいない。ただ、スバのトレードマークと言える奇抜なエレクトロニカ色は薄まり、英語の歌詞がやや増えた。驚異的なのは、もはやリミックスの余地がないほどの濃密なサウンドづくりだ。ボサ・シンガーたちのスローな歌声を使い、サテンのように優雅な真夜中の気分を演出している。例外は「River Song」で、トリルで演奏されるフルート、ヴァイブ、せわしないブラシ・ドラムがミッド・テンポの曲調を生み出しており、新境地を感じさせる。また、「Cada Beijo」における、うっとりするほど心地よいグライド奏法もなかなかのもの。
その他のハイライトとして挙げられるのは、時計の針の音をうまく使って催眠的な効果を上げているオープニング・トラック「Simplesmente」、うねるような「Aganju」、リタ・リーとムタンチスによる原曲を見事な現代版トロピカリズモに仕立て上げた「Baby」のカバー・バージョンなど。悪く言えば、「Every Day You've Been Away」や「Next To You」のようなシンガー・ソングライター風バラードでは、ジルベルトの本領を引き出せないということだ。よくまとまってはいるが、冒険的とは言えず、失望させられることはないが、激しく心を揺さぶられることもないアルバムだ。(Jon Lusk, Amazon.co.uk)