いしいしんじさんの最高作!
★★★★★
いしいしんじさん、『ポーの話』を読みました。
いしいさんの作品は、ファンタジーだけども、
迷いや痛みもきちんと描いてきれいごとだけでは終わらないのが好きなのですが、
この作品も悲しさと、力強さのバランスがものすごく良かった。
ある街を北から南へと流れている、幅広の泥の川。
主人公のポーは、上流の川岸にいるうなぎ女たちの子供として産み育てられた。
誰よりも息が長く続き、泳ぎの得意なポーが、だんだんと川を下り、
“天気売り”と出会い、友情のようなものを得、
街一番の女たらし“メリーゴーランド”とその妹“ひまし油”に出会い、兄妹愛に触れ、ついでに盗みも覚え、
猟師の“犬じい”とその孫、猟犬の“こども”と出会い、人の死を悼む気持ちを学び、
ごみの埋め屋の夫婦と出会い、恩義や夫婦愛を知り、
海に出て、海辺のさびれた漁師町で、町を守る老人たちと出会い、家族の愛を感じます。
ポーの一生を見ていて、知識や知恵を得ることが怖いことなんじゃないかって思いました。
今まで知識を得ることは素晴らしいって、疑いもしなかったし、
博識な人に対して無条件に憧れてしまうようなところがあったので、
ちょっとだけでも恐れを感じたことが初めての感覚で、戸惑ってしまいました。。。
無垢で無知な少年の旅
★★★★★
惜しみない愛情を注がれながらも
ごく狭い世界で単調に暮らしてきたポーは
無垢で無知な少年に育っていた
ある日 ポーは 天災に遭い
やむなく故郷を巣立つ事になる
外界の様々な人々との出会い・別れを通じ
欠けていた彼の心が補われてゆく
まるで まっさらな画用紙に
色絵具が塗り付けられていく様だった
何の為に どう生きる(死ぬ)のか
己は何によって生かされていくのか
その答えが ようやく見えた頃
ポ−の長い旅は終わりを迎えるのだが
それは 新しい物語の始まりでもある
生き 死んでゆくものたちの想いは
ウロボロス(作中ではウナギ)に象徴され
終わりから始まりへ 一つの輪になり
次代へと循環していく
情愛を注ぐ対象を意識して生きる事は
自己と世界との繋がりを濃厚にする
大切な事を再確認する為の物語
少し引き摺られるお話
★★★★☆
いしいさんの本は大概追っかけていたのですが、この「ポーの話」はタイトル通りの話です。
淡々と童話のように悲しいものも優しいものも書き上げるのが印象的な方でしたが、この本ではより一層それが濃く感じられました。
よくもわるくも、うなぎ女の息子の「ポー」という少年の物語です。
読み終わった後には今までにあったような爽やかな安堵感はあまり得られません。
何も想像力のなかった少年が成長していく様に重きをおいています。
友情も大切なものもよくわかっていなかったポーには色々なものが欠けています。
それを取り戻すため様々な状況下で様々な感情にポーは襲われますが、それでもつぐなうため(それだけではないのでしょうけれど)にポーは生きていきます。
あくまでこれはポーの物語。
それを取り囲む人々の人生も流れているのですが、物語のラストへの収束のさせ方がいしいさんらしくて、ついついホロリと来てしまいました。
暖かくてぬるーい
★★★★☆
温かくてぬるい泥の河の中に
ぷかぷか浮いたような気持ちで
楽しむことが出来ました。
宮本輝の泥の河は、冷たくて流れが速そうだけど
ポーの話の中では、洪水の中でも、なんだか温かそうに思えるのです。
のんびり出来るときに読むのがおすすめ
犬じいさんだいすき。
★★★★☆
小説家というのは、上手に嘘をつく商売だという言葉を聞いたことがあります。
今ちょうどこの「ポーの話」を読み終わったところで、この言葉が頭に浮かびました。
無数の優しいイメージの連鎖。詩のような文体。物語の根底を流れる神話的な世界観。
なんていう作者のまったく豊かな嘘も心地よいのですが、
小難しいことなんかより、登場人物がどれもすばらしく魅力的です。
あまりに純粋なポー。シャイなメリーゴーランド。
意地っ張りのひまし油。天気読み。犬じいさん。うみうし娘。
誰が読んでもきっと、頭のなかにそのひとだけの登場人物の
姿が活き活きと浮かび上がるでしょう!
それだけでも、十分楽しめると思います。