こんな梅雨にうってつけの一冊
★★★★☆
こんな梅雨にうってつけの一冊
あらすじ
癌で入院中の父親と寝たきりの祖父の面倒を一人でみる柊一。
近所のおばさん、女子高生とその家族、行きつけの店の女性、
彼は、誰ともそれなりに当たり障りなく付き合い
日々の生活を淡々とこなしていく。
だけどあの日は雨が降っていた。
感想
この作品はおそらく数ある樋口さんの作品の中で、
代表作としてあげられない作品だと思います。
女性に対して気障なセリフを平然と吐く男性。
そういうタイプの主人公が多い樋口さんの作品の中では珍しく
柊一には口説き癖が装着されていません。
その代わり彼にあるものは『理解はできる』というスタンス。
相手の言い分を理解し、それにそつなく対応する。拒絶はしない。
外出中、突然AV女優が家を訪れ、祖父と意気投合していても動じず
女子高生がある告白をしてきても、否定はしない。
そのスタンスは不気味なまでに一定に保たれ、ラストを迎えます。
ものすごく盛り上がるシーンはありませんし、
話は終始淡々と進んでいきます。
それでもページをめくる手が止まらなかったのは、
柊一の行動原理に惹かれるものがあったからでしょう。
柊一の行いをつぶさに観察する。
興味深い対象ただ眺めていく、そんな小説でした。
読んでからの一言
理解はできる。でも、共感はできない。
全体的に淡々としていておもしろみがなかった
★★☆☆☆
人からは真面目で好青年だと思われている柊一。父親や祖父の面倒を見つつ、離婚した母親からお金の融通を求められる男だが、育ってきた環境によっていつの間にか考え方が歪んでいたのだろうか。柊一の幼少時代の話がなかったので彼がなぜこんな男になったのか、もう少し過去の話を掘り下げてもよかったと思う。内容として、AV女優を登場させたり、介護の実情を描いたりとおもしろいところもあったが全体的に淡々としていておもしろみがなかった。
最後は印象的も物足らない
★★★☆☆
03年刊行の単行本を文庫化した作品です.
まず,印象に残るのは『正常(まとも)』という言葉で,
主に主人公のほめ言葉として,たびたび出てくるのですが,
まわりが異常ばかりの中,物語が進むにつれ重さを増します.
そんな中,『正常』なはずの主人公に『異常』がチラつき,
それをあっさり破ってしまう姿には,少しゾッとするほどで,
それでいて,大きく歪まない様子には妙な嫌悪感をおぼえます.
また,パッと読んだだけではかなり呆気ない感じの最後も,
『正常』ではない主人公が,日常に引き戻されていくようで,
それでも,『正常』でないように映るのがなんとも苦いところ.
ただ,雨に重ねた鬱屈感や,季節を感じさせるさりげない描写,
独特の言いまわしなど,著者らしさはところどころにあるものの,
正常と異常,しずかな狂気などは,目新しさに欠けて物足りません.
あと,気になるのは家事や作業という場面での描写のこまかさ.
読みやすい文章で負担にはならないものの,やや冗長に感じます.
また,年配女性の物言いが,みな同じようなのも引っかかりました.
青春シュール・ミステリーの域だな。
★★★★☆
樋口有介は、サントリーミステリー大賞の「ぼくとぼくらの夏」以来のファンだ。基本は高校生(が中心だが、中学生、大学生の場合もある)が主人公の青春ミステリー作家。柚木草平という独身中年探偵や木野塚佐平という老年探偵のシリーズものもあるが、この作家の本領は淡白で世間に流されてない男の子と美しい少女の会話にある。本書はその路線にある。あるはずなんだが、少し違う。主人公はさらに世間や人間の生死に無頓着になっているし、その癖は登場してくる美少女にも伝染している。このペシミスティックな感じは何なんだろう。しかし、細部や会話は面白い。ちょっとした、怪作である。
終盤になって良く出来たサスペンスだった事に気付かされた
★★★★★
癌で入院中の父、自宅で寝たきりの祖父をかかえる柊一は、隣のハツの紹介で、昔祖父を手伝った緒川家の板塀の塗りを行うことになる。柊一の周辺で起こる出来事を淡々と描いていく。
クールな柊一をはじめとする登場人物もよく描かれていた、終盤になってやっとこの作品がとても良く出来たサスペンスだった事に気付かされた