山中十四子、通称トシ。クールなテラウチと、エキセントリックなユウザン、育ちのよいキラリンという3人の友人とともに、残り少なくなった高校生活を送っている。夏休みのある日、隣家の同い年の少年が母親を撲殺した。彼がトシの携帯電話と自転車を盗んで逃亡したことから、4人の女子高生は事件に巻き込まれてしまう。警察や大人たちに真実を話せず、個々に抱える悩みを逃亡少年に照らす彼女たち。「ヒトから見られる自分」と「本当の自分」のはざまで揺れ動く思春期の心が、章ごとに語り部を変えるスタイルでつづられている。
桐野作品は、リアルな女性描写に定評がある。探偵「村野ミロ」しかり、『OUT』の主婦連しかり。そこには世の男性陣の幻想であろう「優しく弱い」姿はなく、図太くしたたかに生きる女性像が描かれている。本書もまた女性の描写がおもしろい。といっても、従来作品にある「大人の女」とは異なり、ここに登場するのは女子高校生4人組である。大人のように1人で歩むことはできず、子どものように無邪気になれるわけでもない彼女たち。油断すると足元をすくわれそうな世知辛い世の中から、懸命に自分を守りながら生きている。ある者は目立たぬようにと細心の注意を払い、ある者はバカなふりをして。これが「イマドキの女子高生」の真の姿なのかもしれない。(冷水修子)
理解できないのは自分が年を重ねたからなのか。
★★★☆☆
桐野さんの著書は人の心の醜いところを、気持ちの良いくらい鮮やかに
描いてくれていて、特に「OUT」「グロテスク」は醜くも華々しく美しい
強烈な作品で、作品からほとばしるエネルギーに読後しばらく打ちのめされてしまった。
しかし、この「リアルワールド」については、テイストは桐野さんの世界が
全開でエネルギーを感じたが、登場人物の心理が全くといっていいほど
理解できなかった。登場人物の高校生たちのふわふわと浮かんだ心模様が、
そのまま着地せずにどっかに飛んでいったまま読了してしまったようで、
しっかりと感じることができなかった。
これは即ち、もはや自分がおじさんになってしまったということなのか。
1番好きかも
★★★★★
各章が主要人物五人の視点から描かれる。各人の細かいニュアンスが感じられるし、それぞれが友人たちをどう見てるのか、その違いに驚かされたりとても興味深い。事件に関しても心理的には現実よりもリアルかもしれない。
桐野作品は大分読んでみたが、私は今のところこれが一番好きだな。
今の女子高生って。。。
★★★★☆
物語としては、面白い。構成も面白い。作品としては、素晴らしいと思います。他人からしたら、羨ましいくらい魅力的な4人の女子高生がそれぞれに問題を抱えている。本人一人称では、気楽に生きている他のメンツとは違うんだ!! と思い切り熱く語っています。自分を守ろうとするキャラ,カラに閉じこもるキャラ,生まれ変わろうとするキャラ。そこに母親殺人の少年が投げ込まれる。とても、刺激的なシュチュエーションでした。しかし、実際問題として、現役の女子高生がここまで考察できているか、こんなに単語を知っているか、ここまで行動できるかということに関して言えば「???』です。言葉にできないナマの感受性と、それを言葉にできる成熟した作者の知性が作品として結実しています。それゆえ、あくまで虚構の世界でのできごとなんだなあ。。。と、感情移入はしきれませんでした。
リアル
★★★☆☆
まるで毎週サスペンスドラマを放送するように次々と新たな殺人事件のニュースを見聞きする。
実際におきた悲惨な事件なのだけど、「怖いわね」「可哀想ね」
などと話してもどこかドラマと同じ感覚で別世界の出来事と思ってしまう。
しかし、事件のおきた地域がものすごく近所だったり知っている場所だと
ニュースがとても恐ろしいものに感じてしまう。
どんなに凶悪な世界的殺人テロよりも、知っている場所でおきた事件は
頭にこびりついて容易にはなれない。現実世界のものだと痛感してしまうのだ。
遠いところで起きた事件はあれこれ事件について推測し、客観的に見るが
身近な場所のニュースは「自分が被害者ならこうした」
「自分が加害者の立場ならあのときこう考えるはずだ」と自分自身について考える。
この本でも、身近に起きた事件を通じて少女達は「自分は・・・」と考えている。
全然リアルっぽくないものが
★★★★☆
あいかわらず、桐野さんは怖い小説を書くなぁ。
ストーリーは、題名とは裏腹に、全然リアルっぽくなく、まさに
オハナシとして進みます。
んなわけないじゃん、みたいな。
でも、現役女子高生の意見を聞きたいな。本当はこんな感じで、
それをリアルに思えないのは私らオヂさんだからなんではないか
しら。と、思い出すと、まさにこれは現役女子高生たちのとって
もリアルな会話、リアルな心情、そしてリアルな生活に思えてき
た。
ストリーは、彼女たちの周囲に起こったリアルな事件を、彼女達
は全然リアルに感じず、取り扱わない。
まるで、ごくそこで起こったことなのに、テレビのなかのドラマ
か、遠い外国で起こっている関係ないようなことのようにして、
遊んでいるような感覚でいるうちに、実はもちろん本当の事件で
あり、生身の人間が関係していることだもん、事件は事件として
発展していってしまう。
ストリーの運び方の妙、高校生とはいえ一人一人が当たり前なん
だけど、それぞれの人生をしょっていることの露呈。
とっても巧みで、面白い、そして怖い小説でした。
なお、精神科医で評論家の斉藤環の巻末解説は、秀逸です。