4本の中編小説をまとめた「恐怖の四季」の文庫版。本書は秋、冬の2作品を収録。表題作の秋編のプロットをひと言で表現すれば「死体を探しにピクニック気分で2日間の旅に出た4人の少年たちの物語」となる。途中、「誰が見ても」危ない目や「当人にとっては」死にそうな目に遭いながらも旅を続けるうち、普段は見せない弱さや背負っているものを徐々にさらけ出していく。後に映画化されたが、原作の一卵性双生児のようなそのでき映えに、世界中が賛辞を贈った。
「人は何歳であろうと既にそれぞれの人生を背負っている」という当り前のことを、この原作と映画は教えてくれる。岩崎恭子の「今まで生きて?」発言がかつて話題になったのも、「子供への先入観」があったからだろう。
冬編「マンハッタンの奇譚クラブ」は、どことなくコナン・ドイルの「赤毛連盟」を彷彿とさせる怪しさとゴシックな雰囲気を持っている。作品の舞台はニューヨーク東35ストリート249Bの、とある会員制社交クラブ。ただし、その成り立ちは不明、会費も無料だという。
上司の誘いでそこに足を踏み込んだデイビッドはいくつかの疑問を抱きつつも、しだいにその居心地の良さにのめり込んでいく。珍本かつ傑作ぞろいの書庫、巨大な暖炉、樫の寄せ木張りの床、ビリヤード台、象牙と黒檀を刻んだチェス、トランプ、スコッチ、ブランデー、皮が肉汁で張りつめ湯気をあげるゆでたてのソーセージ、そして会員たちが語る風変わりな体験談。その極めつきはクリスマスの前日、ある老医師が語った、ひとりの若く美しい妊婦をめぐる、奇怪だがロマンチック、しかも心温まる物語だった。モダン・ホラーの騎手がホラーをメインディッシュではなく香辛料として、最小限の描写で最大の効果を上げた意欲作と言える。(中山来太郎)
少年期のノスタルジー賛歌
★★★☆☆
幼少期には一度は通る死という通過儀礼だろうか? 誰しも経験する死への好奇心は多かれ少なかれあるけれども、作者にはそのモチーフを物語へと構築する執拗な意志が漲っている。事実のグロテスクさなのかストーリーテリングの絶妙なのか?というくらい、たしかに読ませる力量は並ではない。比喩の面白さ、というか強引さというか、文章スタイルは独特である。少年時代特有のあの微妙な鬱屈とストレートさに浸りたいときにはうってつけの、大人の読み物だ。悲惨でありながら栄光でもある、繊細でありながら能天気な少年期のノスタルジーの賛歌である。
2つの物語、2通りの人生
★★★★★
【恐怖の四季(秋の目覚め):スタンド・バイ・ミー】
ゴードン、クリス、テディ、バーンの4人は物語の主題の死体探しが終わったあと、それぞれの人生を歩んでいきます。映画でそれらの役を演じた俳優達もまた人生色々。
以下、映画DVD(http://amzn.to/as81Vc)の方のレビューで語られるべき内容だと思いますが、以下ご了承ください。
◆ウィル・ウィートン(ゴードン役、語り部):あまり日本では有名ではないが、テレビドラマで主に活躍中。私がこの俳優さんを知ったのは『スタートレック Next Generation』のウェスリー・クラッシャー役でした。この役でもゴードンと同じくナイーブな少年を演じていました。ギーク、パソヲタ。
◆リヴァー・フェニックス(クリス役):この映画で注目を浴び『旅立ちの時』でアカデミー助演男優賞にノミネートするなど非常に将来が期待されるも、薬物中毒により1993年10月31日23歳という若さで死亡。生きていたらブラピどころじゃなかったと思う。
◆コリー・フェルドマン(デティ役):順調に名俳優としての道を歩むも、成人後に薬物中毒につまづき、現在更生中。
◆ジェリー・オコンネル(バーン役):映画はでぶっちょの気の弱い少年役でしたが、その後ダイエットして見違えるようないい男に。奥さんはレベッカ・ローミン(元夫ジョン・ステイモスを捨てて再婚)双子の娘を持つ幸せ者で、リヴァー・フェニックスなき今、4人の中では一番の出世頭。
以上、小説の主人公4人が映画で役を演じた4人とシンクロして、読んでいてなんともいえない気持ちになりました。
【恐怖の四季(冬の物語):マンハッタンの奇譚クラブ】
物語の中で更に語られる物語のあっと驚く展開と、英国の紳士クラブの雰囲気の描写が見所。オチ(クラブ及びクラブの執事の正体とか)がよくわからなかったけど、雰囲気を楽しめばいいんですかね。この物語。
ホラーとファンタジーの絶妙な融合具合がさすがスティーヴン・キング。出産に対するさまざまな描写及び知識が『ダーク・タワー』 http://amzn.to/9BhxPL のスザンナの出産エピソードに活かされてるんじゃないでしょうか。
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キングの最高傑作
★★★★★
普通は短編集というと、いいものもあるけど駄作もいくつか含まれている、というものだと思いますが、これは4篇ともすべてが極上の作品。すべてが深い感銘を残す、すばらしい短編集です。キングの作品をあらかた読んできましたが、実はまだ若い頃に書いた、この短編集が、彼の最高傑作じゃないかなと私は思っています。キングの長編は、途中からだれてくる傾向があって、最初は猛烈にのめりこんでも途中からは退屈し始めることが少なくないのですが、短編は無駄がない分、非常に密度か濃いのもこの作品のいいところです。「キング=ホラー」という通念のゆえにキングを敬遠していた人は、ぜひご一読を。
最高に良い作品
★★★★★
春夏秋冬4編の作品からなるキングの傑作です。
秋冬のスタンドバイミー、有名な映画ですね。映画も印象的でしたが、原作はなお良かったです
マンハッタンの奇譚クラブ、これだけ映画化されていませんが、独特の雰囲気を持った良い作品です。
キングは人物や情景、心理の描写がすごい。まるで最高の俳優の演じる映画を観ているような感覚にとらわれます。
ホラーは苦手なのでもっとこういう普通のちょっとだけスパイスの効いた作品を書いて欲しいです。
最高に良い作品です。
20年後に読んで・・
★★☆☆☆
ストリーはいたってシンプルです。原題の「The Body」(「死体」かな)からわかるように、列車に轢かれて死んだある少年の死体を見つけに4人の少年が二日日間の旅をするお話です。そこに4人のうちのひとりが成人して流行作家になり、その旅を回想する構成です。なかにはその作家の練習作のような小編も組み込まれています。
再読して・・。星は上のとうりでした。
少年の時代と成人した時代を章ごとに書き分けてはいますが、それはうまくいっていません。少年時代のそれもまったく大人の感覚で表現されています。これはキングのほかの小説にもあてはめられますが、キングの饒舌な書き込みがかえって少年時代を絵空事にみさせてしまうのです。それゆえだいぶ内容をはしょって読み進めせざるを得なかった。つまり作者は、過去の少年時代を今の感覚で回顧し、書き表してしまっているのです。こんな書き方は少なくともわたしには眉唾ものに思え、読み終えるのがえらく疲れさせられました。
映画のほうはそんな小説の饒舌を省略でき、エッセンスのみで表現できたので佳作になっていたと思う。
それと映画がヒットしたのは何といっても映画の題名及びテーマ曲が理由でしょう。
これは私見ですが、キングの作品を映画するにはあまりキングの思い入れをシナリオ化するのを避けたほうが良作になるのでは思います。
追記
文庫版の「はじめに」はキングの意気込みが感じられ面白い。なかの小説より興味があった。